あなたは学校や会社・役所で「この人は知力も人格も優秀だから政治家・国会議員にぜひともなってほしいな」とか思ったことはありませんか。おそらくだれもがあるはずです。
しかし、そういう人に「国会議員になってください」と頼んでもほとんどの人はまず断ります。
なぜなら日本社会は世襲の人が有利で、非世襲の人(有能でも無能でも)は選挙に出馬したがらない構造になっているからです。
今回はこういった世襲議員の問題点や対策、そしてメリット・デメリットをわかりやすく中立的に解説いたします。
筆者は社会科学の分野で中立的な商業出版本もあるため、参考になるはずです。
世襲とは親が自分の子孫に自分の地位を継がせること。子孫の側が親の地位を自主的に受け継いても世襲と呼ばれやすいです。
このページにおける世襲議員の定義は自身の父母あるいは祖父母が国会議員だった人とします。
日本以外の先進国の国政で世襲議員が占める割合は5~10%未満。
一方、日本の国会では世襲議員は自民党で約30%(閣僚級自民党議員だと50%前後)、他党と平均すると10%台が大まかな目安です。つまり、日本は先進国の中ではトップレベル(ワーストクラス?)の世襲議員率。


日本はなぜ世襲の議員・政治家が多い?【三バンの充実】
まずは世襲議員が基本的な原因について。
簡単に言うと世襲議員は、いわゆる三バン(≒親の財産)について充実した形で受け継げるからです。
- ジバン(地盤)
後援会による地域の支持基盤を受け継げば、労せず先代からの固定票をとれる
- カンバン(看板)
知名度があるほど選挙で有利
- カバン(鞄)
お金がたくさん入ったカバンを受け継げば資金面で有利↓
世襲議員の動機づけは疑問であり問題点
カンバンについてたとえば自民党の小渕優子氏(女性議員)は結婚後も小渕という姓を維持しています。
小渕議員は、実父でかつての首相である小渕恵三氏の姓(家柄、名字)を利用したほうが得票率は高まると考えているからでしょう。鈴木宗男氏の娘も同じかも。
要するに世襲議員なんてのは既得権の維持にとって都合がいいのです。そのため世襲議員が所属する党は保守派が多く、彼らが志向する政策は保守的。
すべての世襲議員にあてはまるわけではありませんが、世襲議員は既得権の維持に対する意志が強いのであって、議員として活躍するだけの動機付けが弱いと感じます。
まあ保守的な政策にもよいものと悪いものがありますけどね。
一方、非世襲議員は「オレは社会をよくするために立候補したし、大した既得権をもっていないから議員当選後も出世して存在感を示さないとまずい」と考えています。
しかしというか当然というべきか、世襲議員が多い自民党で若い時期から出世しやすいのは小泉進次郎氏や小渕優子氏のような有名な世襲議員なんですけどね。
既得権の維持に向かいやすい世襲議員ばかりが出世するのは自民党が有力な政党である以上、世襲議員は自民党の外に対しても問題があるでしょう。
小泉進次郎氏は言動や政策も風変りでメディアに取り上げられやすいため知名度だけはかなり高いです。
家業として楽な道を進むべく議員になった人と、そうではない人とでは議員としての精神力の強さが違うでしょう。



家族の凝集性が強い
ここからは日本で世襲議員が生まれやすい根本的な背景についても探っていきます。



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議員系の家庭ではなくても日本人の親は、幼稚園の入卒園式、小中高大の入卒業式、そして一部は入社式にまで出席します。
家庭訪問や三者面談みたいな相談も多いです。これこそ日本で親と子の関係が密接なことの一例。
諸外国では卒業式は割と存在しますが、入学式や入社式はなかったり親は出席しない場合が多いです。
日本社会は進路に対する親からのプレッシャーが強い環境がゆえに職の世襲が多いともいえます。
日本人は親と子どもの属性を結びつけやすい
日本に世襲議員が多い理由として「親と子の同一視」もあります。これは家族の凝集性の強さと関連があります。
たとえば今、あなたにとって極悪な犯罪者・前科者を一人だけ思い浮かべてください。
前科者は法的に簡単に立候補できないとしても、その実子が選挙に立候補するとしたら、あなたは投票しますか。
おそらく投票しない人が多いはず。日本人は「親が悪人だと子どももその教えを受け継いだ悪人だろ」みたいな考え方をもちやすいからです。
実際、某宗教団体の悪徳教祖の子どもは悪さを何もしていないのに教祖の子どもというだけで大学入学を拒否されて裁判沙汰になったくらいですから。
逆に先祖や親が偉大だと子どもまで偉大だと見なされがちです。政界や芸能界に七光や十四光(父の七光+母の七光)が多いのもこのため。
「この親にしてこの子あり」「親の顔が見てみたい」というフレーズは親と子の性質をよくも悪くも連続的に見たものです。
日本人は人間を個人として見るのではなく、どんな系統の家柄に所属しているかで見ているのです。
家柄重視の選び方だと、実力がないのに国会議員や閣僚に選ばれてしまうとか、実力があるのに三バンが欠けているために落選するなんてことが多発するわけです。
※日本人の祖先崇拝の強さや子どもによる手厚い親介護なども親と子の凝集性の強さを表しています。
※女優の杏さん(父親は渡辺謙さん)、俳優の新田真剣佑さん(父親は千葉真一さん)、YouTuberのけーごさん(父親はサッカー日本代表監督の森保一さん)などは逆に親の名前を出したがらない感じがします。亡くなったSAYAKAさんが神田姓を使いたがらなかったのも十四光の呪縛がイヤだったからでしょう。
日本人は名字を重視する



ちなみに表札(おもに名字を掲げた札)は日本では当たり前にありますが、欧米ではほとんど見られません。
欧米では個人情報保護やセキュリティの都合からいって表札は掲げないのです。


選挙は人気を問うもの
また、現代の選挙は実質的には実力というより人気を問うようなもの。
もし議員になるのに難しい筆記・口頭試験に合格することが必要だとしたら、勉強してこなかったお坊ちゃまは世襲をあきらめてしまいそうなものです。
しかし、現代の選挙は候補者の経歴も見られるとはいえ、とにかく人気(票)をとった者勝ちですから学力や実力はあまり関係ありません。
つまり、おバカさんでも大物政治家の親を世襲すれば、名誉(議員は先生と呼ばれる)とお金に苦労しない人生がおくれるため積極的に世襲するというわけ。これは世襲の人にとって大きな(個人的な)メリットです。


党議拘束との関連
また、日本の政党は自民党に限らずどこも党議拘束が強いです。党議拘束とは、議会の採決で政党に所属する議員に党の方針を強いること。
要するに「A党所属の議員として当選してA党議員として活動しているのなら、採決もA党に従え」というもの。これは政党単位の同調圧力みたいなものです。
党議拘束が強いと、有能な議員でも無能な議員でも同じ政党に所属していれば議会での投票は同じになります。
つまり、日本の政治は議員の個人的な資質はあまり関係なく、どこの政党に所属しているかが重要なのです。
そうなると、有力な政党で要職を経験した政治家は子どもに三バンを受け継がせるのに積極的になります(=世襲議員の誕生)。
有力な政党での要職経験は自分一代で終わりにすると「もったいない」からです。



サラリーマンにとって選挙への出馬はリスキー
次に非世襲の人が選挙への出馬に消極的になる理由について。非世襲の有能な人が出馬しなければ世襲候補が有利になります。
そもそも日本の職場の多くは就業規則で副業を禁止しています(最近では解禁されつつありますが)。つまり、日本は民間企業や官庁に在職のまま選挙活動することがとても困難なわけです。
それに日本の職場では政治や宗教の話がしにくいという風潮があります。それは政治の話を積極的にすると、A党支持者とB党支持者の仲が険悪になるなど社内の人間関係にとってよくないという配慮からです。
こういう環境下で在職したまま「A党から出馬します」とか宣言したら、社内のB党支持者からは冷たい目で見られます。
というか、よっぽど有名なサラリーマンでもない限り、国政選挙で当選するには最低でも半年くらいは政治活動をする必要があります。
これは会社や官庁を辞めないとかなり難しいです。このときの費用負担も三バンがない非世襲の人にとっては大きいです。
そこで会社や官庁を辞めて活動するわけですが、これは離職したまま転職活動をしているようなものでリスクがとても大きい行動です。
選挙で無事当選すればいいのですが、落選したらそれまで勤めていた会社や官庁よりも再就職先の待遇は悪くなるでしょう。家族だってその可能性をおそれて猛反対します。
こういう構造だと優秀なサラリーマンはわざわざ会社や官庁を辞めてまで立候補しにくいのです。
これに対して世襲の人や芸能人は三バンが充実していますし、落選したとしても非世襲のサラリーマンほど痛くはありません。
政治経済なんて大して知らない芸能人や引退したアスリートが議員になるのはこういった理由があるからなのです。

非世襲の人が選挙に出たがらないのは供託金の高さもある
そのうえ日本の国政選挙の供託金は小選挙区で300万円かかります。
供託金がないと候補者が乱立してしまうため、どこの国でも必要とされています。ただし、日本の場合は国際的に比較するとかなり割高です。
また、国政選挙の際にかかる選挙費用は1人あたり約2000万円が目安。以上は選挙時の費用であり、議員になるとそれとは別に秘書や政治活動にお金がかかります。
まあ大きな政党の所属議員だと政党本部からの支援も手厚いですが、新興の政党は懐事情が厳しいです。









世襲議員の何が問題か
次に世襲議員の問題について見ていきましょう。
まず世襲議員は地域の後援会に固く支持されていることにより、地域限定の利益の実現に尽くす場合が考えられます。
議員の後援会は世襲議員が地元に利益をもたらすことを期待して応援します。その利益とやらが全国的に通用するものであればいいのですが、中にはごく一部の人の利益にしかならないものもあります。
こういう利益ばかりを実現されると税金の浪費になります。さらに世襲議員が世間の平均よりもぬるい環境で育っていると一般人の苦労がわからず、一般人の感覚とはかけ離れた政治になってしまう可能性もあります。
そうなると、社会の大多数を占める一般人としては「政治なんてどうせ上級国民である世襲議員が好き勝手に決めるんやろ」などと思い込んで投票を棄権しそうです。日本の投票率の低さはこのあたりも関係しているといえます。


まあ↑の吹き出しは推測ですし、苦労していればいるほど政治家として有能とは限りませんが。
世襲議員の中には地方の地元選挙区にほとんど帰らず東京でばかり活動している人もいます。わざわざ地元に帰らないで東京で経験が積めるのは大きいですが、地元にあまり帰らないというのも議員として疑問です。
有力な世襲議員は経験が少なくても閣僚になれる
どこの国でも時代でも政治家絡みの利権は発生するものです。問題は利権が流動的であるか否か。つまり、世襲議員ばかりが連なると利益は特定層の人にだけ固定化されてしまうのが問題です。
とくに日本では閣僚は同じ党に所属し続けて当選回数を重ねた人が任されやすいですから、最近の自民党の閣僚は世襲比率が高いです。
これは日本の伝統的な大企業の幹部に「転職経験なし・年功序列」が多いことと似ています。

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世襲議員を禁止する法律は無理がある
ちなみに世襲議員を全面的に制限する法律はつくれません。部分的な制限は可能ですが。
日本には職業選択の自由という大原則があり、それは憲法でも保障されているからです。
それに世襲議員のすべてが無能というわけではないでしょう。
なお私企業において社長が「うちの会社は子どもには継がせない」とか「従業員の採用は当社役員の子女ではない方に限る」とか宣言しているように私的な制限は可能です。
世襲議員への対策
世襲議員が有能であればまだいいのですが、現実には世襲議員の全員が有能ではありません。そこで世襲議員への対策を考えてみます。
まず大前提として議員にはそれなりの多様性が必要です。
男女、金持ち、中流、貧困層、中卒、高卒、大卒、健常者、障害者、右翼、左翼、田舎出身、都会出身、民間経験者、官庁経験者、自営業経験者、世襲、非世襲、どの層の代表者も必要でしょう。議員がどれかに偏ると、政治もまたバランスの悪いものになってしまうからです。
まあ、それは日本の全人口と比例した人数が望ましいですが。
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ただし、議員(=みんなの代表)として活動してもらうには最低限の知識や実務能力がないと話になりません。
そこで政治家の中でもとくに重要な国会議員については、第一関門として地方上級公務員レベルくらいの筆記試験に受からないと立候補できないようにしてはどうでしょうか。
一般の公務員になるには筆記試験をパスする必要があるように、議員にも最低限の政治経済知識や数的処理能力、読解力を試すのです。


年をとるとともに人間の思考力は下がります。そこに筆記試験を課すと高齢者は不利になるでしょう(=実質的な年齢制限になる)。
そうはいっても本気で議員になりたいのなら最低限のレベルはクリアーしてほしいところです。
雇用の流動化は効果がある
また、雇用の流動化をすすめるという方策も考えられます。
非世襲のサラリーマンが選挙に出馬することをためらうのは落選の怖さが理由ですから、採用も解雇もしやすい社会にするのです。
欧米社会はちょうどその路線です。
ただし、日本の左翼は自民党の世襲議員を嫌う一方で、雇用の流動化も強く嫌っていますので実現は難しいでしょう。
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さらに企業は、自社の幹部や従業員が選挙に立候補することに寛容になる必要もあります。
企業は自社の人材が政治活動という経験をしたことをプラスに評価して、もし落選したとしても元の職場に受け入れるか、休職して政治活動をすることを積極的に認めるのです。



他にも党議拘束を緩めるとか、首相公選制を導入するとか、小選挙区制をやめるとか、供託金を下げるとか、世襲議員は地元以外から出馬しなければならないといった案も考えられます。
しかし、それは憲法に触れたり(改憲の必要あり)、別のデメリットが出てくるなどややこしいところなので割愛します。完璧な政治制度など存在しないのです。


まとめ:世襲議員のメリットとデメリット
日本に世襲議員が多い理由
- 親の三バンが充実しているのなら、それを受け継いだときの経済的なメリットは大きいから
- 親の背中を見ながら育つと世襲したくなる←日本は家族の凝集性が強い
- 日本人は親と子どもの属性を結びつけやすい
- 非世襲の有能な人は選挙に出たがらないため、世襲候補が余計有利になる
世襲議員のメリット
- 三バンを受け継いだ人生がおくれる←世襲議員本人のメリット(社会的には不公平)
- 三バンを活かせば選挙対策に時間がとられず本来の政務や勉強に時間をとれる←社会的なメリット
- 世襲議員が地元に利益をもたらしてくれるとすれば、その地域の人には利益になる←地域限定のメリットだが、全国的にはデメリットになる
世襲議員のデメリット
- 世襲議員というだけで中身が大して見られないまま親絡みでいろいろ批判される←世襲議員本人のデメリット(本当は実力があって社会に貢献できるのに、それが原因で出馬しなかった人がいるとすれば社会的なデメリットにもなる)
- 無能な世襲議員ばかりが優遇されると、有能な非世襲者は選挙に出る気をなくすなど政治の質が下がる可能性がある←社会的なデメリット
- 世襲議員が地元に利益をもたらしてくれないとすれば、その地域の人には不利益になる←この方が全国的には望ましいか
日本に世襲議員が多い理由は、親と子の凝集性が強いことや、親と子の性質を連続的に見ることも原因となっているなど、よくも悪くも日本社会に根ざしています。
法制度で世襲議員を部分的に制限できなくもないのですが、それでも解決するには日本社会の慣習をも変える必要があるのかもしれません。
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