アメリカはだれもが認める経済大国です。
日本もかつては経済大国といわれていましたが、今では斜陽感があります。
そこで今回はアメリカが経済大国である理由について日本との比較も少し出しながら解説していきます。
アメリカが経済大国になった理由
アメリカが経済大国として君臨する以下のとおり。
地理、歴史、思想、人材、資源、制度など多岐にわたる理由が折り重なっています。
- 先発優位性にめぐまれた
- 国土が大戦の戦場にならなかった
- アメリカは西欧からの移民にとって望ましい地理的条件だった
- 国土の広さ
- 貴族制の伝統がなく大衆型の文化が強い
- 普遍的に通用するという思想
- 格差は大きいが、寄付や投資が盛ん
- ぶっ飛んだ個人(リーダー)が引っ張る
- 世界中から有能な人材が集まって競争する
- IT産業が強い現代では雇用の流動性が活きている
- キャリアは専門性重視
- 高等教育に人材が集まり、個人が伸びる
- 強い軍事力と諸国からのお金によって攻撃されにくい環境を確立
ここから先は以上の箇条書きを紐解いていきます。
西欧の自滅を活かして先発優位性を確立
まずはアメリカの地理および歴史について。
そもそもビジネスにおいて他者(他社・他国)に先駆けて発展した主体は、自分たちに都合のいい規格や市場をつくるなどしてビジネスを有利に展開することができます。これを先発優位性といいます。
で、それを国単位で見ると19世紀の先行者は経済大国イギリス(大英帝国)でした。
しかし、1910年代には第一次世界大戦が起きたために西欧は大きく疲弊してしまいました。
西欧はそれまで世界経済をリードしていたのですが、大戦によって自滅したような形になってしまったのです。
※第一次世界大戦は「世界」とはいうものの欧州中心の大戦です。
※中世では西欧よりも中国や中東が発展していました。
一方、アメリカは第一次世界大戦の戦場とならなかったため国土は荒廃しませんでした。アメリカが戦場になったのは1860年代の内戦である南北戦争くらいのものです。
1910年代のアメリカは第一次世界大戦に合わせて軍需品を輸出するなどして大きな利益をあげました。
1920年代のアメリカはヨーロッパに代わって世界経済の中心地となりました。この時代のアメリカは「黄金時代」と呼ばれるほど繁栄しました。
1920年代末からはアメリカを中心に世界恐慌(大不況)に襲われますが、アメリカは第二次世界大戦の戦場にもならなかったため国土が荒廃しませんでした。
これが現代の経済大国アメリカの歴史的な基礎となっています。
西欧の移民にとってアメリカは望ましい環境だった
もともとアメリカの国土にはネイティブアメリカンが住んでいましたが、その数は少なく大航海時代以降は移民(とくに西欧からの入植者)が相次ぎました。
現代のアメリカで活躍するアメリカ人の源流をたどると移民ばかりです。
たとえば西欧が戦場になった場合に昔の西欧人は「アフリカや中東は未開感が強いし、アジアは遠いうえに言語や文化も違う」と考えてアメリカに移住したパターンは多かったでしょう。
アメリカの国土の中でも最も発展し、なおかつ人口が多い都市はニューヨーク(北東部の東海岸)であるのは、西欧からの移民にとって便利な街だったからでもあります。
アメリカは東部から発展した国であり西部開拓は後回しになりました。
ついでにいうとアメリカの超一流大学は北東部に集中しています。
映画でも有名なタイタニック号は20世紀初頭においてイギリス(サウサンプトン)とアメリカ(ニューヨーク)をつなぐはずだった豪華客船。
タイタニック号をはじめとして西欧からの移民はアメリカに対する夢や野心が大きかったはずです。



大衆型の経済で時代をリードした:貴族制や王制がない
アメリカは移民だらけの国です。
しかし、西欧からの移民が多かったといってもアメリカに王制や貴族制は持ち込まれませんでした。
そのため現代のアメリカ企業は大衆向け商品に強みをもっています。

イギリスとスイスは伝統的に金融業が強く、それはアメリカにも受け継がれました。
さらにロスチャイルド家(金融に強い西欧の大財閥)はアメリカにも拡散したためか、現代のアメリカは金融業も強いです。
ヨーロッパ系の大企業といえばルイヴィトンやポルシェ、オメガなど高級ブランドに強みをもっている一方で、アメリカ系の企業は大衆向け商品に強い企業ばかりです。
アメリカの大衆向け商品の企業はたとえば、フォード、マクドナルド、ペプシコ、マイクロソフト、アップル、ウォルマート、ディズニー、アマゾン、ナイキ、グーグル、アメリカンエキスプレスなど。
1920年代のアメリカではT型フォードというフォードの自動車が爆発的に売れ、それは自動車中心の大衆社会を形成しました。
現代の日本でもよく見られる幹線道路沿いに大型店を並べるという都市構造はアメリカが生み出したようなものです。
高級ブランドは単価および利益は高いですが売上点数は少ないものです。この点、大衆向け商品は単価および利益は低いですが売上点数は多いです。
18~19世紀の産業革命以降は人口が爆発的に増え、先進国は大衆社会となりましたから大衆向け商品を大量に供給できたアメリカ企業が世界経済の構造で優位に立ちました。

普遍的に通用するという思想
次は思想面について。
アメリカは多様な人々がいる国ですが、その思想の基本はキリスト教と英語です。
で、キリスト教は西欧の宣教師が交通の不便な中近世に日本をわざわざ訪れたように布教に熱心な宗教でもあります。
この背景には「キリスト教は普遍的に通用する」という思想があります。
同じように英語を母語として話す人は「英語は普遍的に通用する。日本人だって先進国を自称するなら英語くらい話せるようになれ」みたいなことを思っています。
要するにアメリカ人は「自分たちの思想は普遍的に通用する」と考えているわけです。
そのため、アメリカ企業がつくる商品・サービスも「普遍的に通用する」が基礎にあります。
実際、マクドナルド、コカコーラ、マイクロソフト、アップル、ディズニーといったアメリカ企業の商品・サービスは世界中に普及しました。
あなたの身の周りも、グーグルのような無形サービスも含めるとアメリカ企業系の商品であふれているのでは?


この点、日本企業の商品は自動車やゲーム機は世界市場でも強いですが、家電やITソフトは世界市場では弱いです。
日本の家電製品は規格がガラパゴス化していたり無駄に機能が多かったりデザイン性に欠けるため、現代では売れ行きが今ひとつです。


諸国の有能な人材を集めるパワー:頭脳流出
次は人材面について。
アメリカの人材戦略が全体的にすごいのはアメリカ人以外の人も惹きつけるパワーにあります。
すなわち、世界中の優秀な人材はアメリカの大学(とくに一流大学)に入りたがることです。
アメリカはアメリカ人向けの初頭~中等教育のレベルが低いとしても、高等教育が魅力的である限りは人材に困らないのです。
これは、日本は初等~中等教育の学力水準は高い一方で、高等教育の水準が低いのとは対照的です。
ビジネスや学問に限らず、プロ野球やバスケ、テニスといったスポーツでも「アメリカでレベルを上げたい」「アメリカで自分の力を試したい」と考える人はたくさんいます。
このようにアメリカの大学・スポーツ・企業に人気があるのは、
- 成果を出した人に対する報酬が大きい
- 世界中からレベルの高い人が集まっていて自分のレベルも上がる
- ベンチャービジネスにおいては出資が多い
- 名門大学においては寄付金と奨学金がかなり多く設備も充実している(学費は超高いけど有能な学生には魅力的)
- 日本人にとってアメリカは日本の常識にとらわれていない
- 出る杭を伸ばす気風がある
- 自由とアメリカンドリームに憧れる
といった理由があるから。
アメリカは有能な人が上をめざしたり大きく稼ぐには優れた国だといえます(それ以外の人にとって住みよいかは?ですが)。
お金持ちが住む環境としても狭い日本より広いアメリカの方が快適でしょう。
まあ頭脳が流出した国にとっては大きな損失ですが、とくに途上国のエリートの気持ちを考えるとやむを得ない気もします。



アメリカ人は貯金をあまりしない(消費や投資が多い)というデータもありますが、これは強さでも弱さでもあります。
企業としては消費額が多いのはうれしいでしょうが、借金で首がまわらなくなるとリーマンショックのように企業も個人も連鎖的に破綻するからです。
ぶっ飛んだ個人が重要な時代:雇用の流動性とキャリアの専門性
次は雇用と個人のリーダー性について。
そもそも1990年頃までは先進国の製造業は自国に生産拠点を置いていました。先進国の中心産業が製造業だった時代では日本の厳しい解雇規制はうまく機能していました。
そこでは年功序列型賃金と終身雇用という長期的関係がよい意味での忠誠心やモチベーションとなっていたからです。
また、日本の教育は製造業の現場で役立つ画一的な人材を供給できていました。
しかし、ソ連崩壊や中国の開放政策によって先進国の工場は賃金の安い途上国に移転しました。
そのため現代の先進国では企業の本社機能やIT産業の重要性が増しました。
こういった時代・産業では、経営者やプログラマーなど一部のリーダー的な個人の資質(専門性)がとても重要です。
経営者は以前よりも素早くて的確な経営判断をもとめられますし、プログラマーはITによって事業各所の改善を担うからです。

プログラマー出身の有能な経営者も数多く見られます。それは過去の例も含めると、ビル・ゲイツ(マイクロソフト)、ラリー・ペイジ(グーグル)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック)、ジェフ・ベゾス(アマゾン)など。
アメリカは解雇規制が緩い転職社会ですから、ITが有力な産業と見なされたら、人材の移動も滑らかに起きました。
そのうえアメリカのキャリア体系は自分の専門性を磨き、それによって稼ぐことが根底にあります。
こういう専門性重視の体系はIT産業と相性がいいです。


さらにアメリカの大学は諸国の才能ある個人がこぞって入学したがるうえに、才能ある個人を伸ばそうとする気風があります。エリートの起業家精神も強いです。
要するにアメリカは企業や人材の新陳代謝が活発で、すぐれた個人が経済を引っ張る構造になっているのです。
一方、日本にも優れた人はいますが、日本社会の競争はアメリカほど多様な人材にもとづいた競争でありませんし、大学や企業の制度・慣習が個人を伸ばすようにはできていません。
高学歴の人材がこぞって医師や成熟した大企業ばかりをめざしていては、優れた企業や発明が生まれにくいです。
そのうえ日本のキャリア体系は「総合職」という言葉にも示されているように専門性が欠ける「なんでも屋」みたいな体系であり、これは外資系企業の専門的な人材に負けやすいです。
官僚が利権を保持しにくい構造と新陳代謝
最後はアメリカの政治について。
アメリカの政治の中でも経済大国ぶりと関連がありそうなのが、アメリカは大統領の交代とともに高級官僚(上級公務員)も入れ替わるということです。
その人数はなんと約4000人。こうも高級官僚が大きく入れ替わると日本のように省庁が利権を長く保持しにくい構造になります。
省庁が長期にわたって利権を保持しにくいこともあって、アメリカでは企業の新陳代謝や新産業への移行が日本よりはなめらかです。
一方、日本ではゾンビ企業といって本来つぶれているはずの企業が政府の支援によって生き延びています。これは官僚やグループ企業の手厚い支援が原因です。
日本は企業や産業の新陳代謝がアメリカほど活発ではないのです。
日本は高度経済成長期に成功した製造業中心の経済的成功を未だに引きずっています。

アメリカは宗教目的以外では攻撃されにくい
現代でアメリカの経済大国ぶりは確たるものになりました。
その証の一つとしてアメリカには世界中の資産が集まっています。
スイスにもいえますが、外国から資産(とくに富裕層のお金)が多く集まっている国は外国から攻撃されにくいです。
もしアメリカを攻撃したらアメリカの金融機関に預け入れられているお金やアメリカ企業に投資されているお金は台無しになってしまうから。
そのうえアメリカ軍は世界でも指折りの強さを誇りますから、アメリカを下手に攻撃したら強いしっぺ返しを受けます。
1940年代の日本はまさにそれをやらかしてしまったわけです。
現代で他国がアメリカを攻撃するとしたら宗教目的のテロくらいでしょう。
それが如実に現れたのが2001年の同時多発テロなのでした。
アメリカは世界中の人材とお金が集まるうえに天然資源にも恵まれていますから外交は「強気」が基本です。軍事力も強いですし。
同じく天然資源の埋蔵量が多いロシアも外交と軍事政策は強気です。
まあアメリカの原油消費量はアメリカでの産出量以上に多いため原油は輸入もしないとまかなえませんが。
まとめ
アメリカ経済の強さがご理解いただけたかと思います。
では、経済が停滞している日本はそれを見習うべきかといえば単純にそうはいえない面もあります。
日本とアメリカでは言語や地理的な条件が大きく違いますから、単純にアメリカをマネすればいいとは言い切れないのです。