日本には将棋のプロ棋士が170人ほどいます。
しかし、現在までのところ女流棋士は何人もいますが、女性のプロ棋士(女性棋士)は一人もいません。
今回は将棋が男女を分けて対局しているかのように見える事情と理由をわかりやすく解説します。
「女子アナ」や「女医」と同じ発想で職名の前に「女子」「女」「女流」という言葉がつくとそれだけで反射的に「女性差別だ」と騒ぐ人がいます。
そういう人はぜひとも女流棋士の内実を知ってください。知ったら「女性差別だ!」と騒げなくなりますから。
将棋界に女性棋士がいないのは差別が原因ではない
そもそも女も男も奨励会という組織の入会試験に合格し、その段位別リーグ戦(男女混合)を勝ち上がれば問題なく男女共通としての将棋のプロになることができます。これがいわゆる棋士(プロ棋士、男性棋士・女性棋士)です。
奨励会では入会時は対局試験に加えて面接・審査がありますが、入会後は将棋の成績上位者がプロに上がれるというだけなので男女差別はないといえます。


しかし、残念ながら奨励会四段になれるだけの成績を残した女性は今までのところいません。
そこで日本将棋連盟は女流枠をつくってプロになれないレベルの女性を半ばプロ扱いしています。これが女流棋士です。
つまり、男性はプロになれない実力だとアマチュアにすぎませんが、女性はプロになれない実力でも女流という特別枠にすくい上げられるのです。
プロ棋士(男女共通の競争枠の勝者)と女流(女性だけの枠)とでは制度が違うため「女流棋士」と呼んでも問題ないわけ。
もし女流棋士が「女流棋士」と呼ばれるのがイヤなら、奨励会を勝ち抜くか編入試験に合格するしかありません。


収入にもねじれが発生しうる
プロになれない実力でも女流枠にすくい上げられるという点は、男性にとっては差別、女性にとっては逆差別でしかありません。男流なんていう枠はなく、男はいかなる強さでも女流棋戦に参加できませんからね。
こういう逆差別は囲碁界にもありますが、囲碁の女性棋士の中には女流採用の特別枠ではなく男性との正当な競合によってプロになった人も少しだけいます。
その意味では囲碁の方が男女差は小さいのかもしれません。

棋士の年収を大まかに序列化すると、タイトル独占プロ棋士>女流タイトル独占棋士>プロ上位>プロ中位>プロ下位>女流棋士中位>女流棋士下位、という感じ。
もし女流棋士が女流タイトルを独占できるほどに活躍したらプロ上位以上は稼げます。
棋戦の賞金は将棋の実力だけでなく商業的な価値によっても左右されるのです。
将棋のような頭脳ゲームに救済枠は必要か
ちなみに日本のプロ野球チームは女性を入団させることができます。
しかし、実力的にプロ野球で活躍できそうな女性は今までに一人もいないため女性の入団はありません。ルール上は女性の入団は問題ありませんが、実力としては及ばないというわけです。



ここで「プロ野球みたいなスポーツは肉体差があるから女性の入団はかなり難しいけど、将棋みたいな頭脳スポーツならまだ女性が入ることはできる」と考える人もいるでしょう。
その考えは大体あっていて、奨励会の三段リーグ(=プロの一歩手前レベル)のプレイヤーに女性がいる(いた)ことはあります。
筆者の予想では近い将来、女性のプロ棋士が誕生するでしょう。ガンバレ中三段!


なぜ女流枠を設けるのか
女性棋士の誕生後に問題になるのが女流棋士の存在意義。
女性が男女共通としてのプロ棋士になれるのだったら「もう女流枠を設けて女性を特別扱いする必要はない」と見なされるからです。
しかし、それでも女流枠は必要とされる可能性もあります。
なぜなら、女流棋士はプロ対局の聞き手役やイベントの盛り上げ役、指導対局役としてアマチュアの男性ファンから人気があるからです。
それにプロ棋士の妙手はアマチュアにはほとんどマネできないハイレベルなものですが、女流棋士の指し手ならアマチュアでも放てないことはありません。
テニスでも観戦するなら男子プロの方がハイレベルで楽しいですが、アマチュアがマネするなら女性プロの方が参考になるのと似たようなものです。


男性棋士としても自身の対局だけでなく、他の棋士の対局の立ち合いや解説、サインや本を書く、ファンとのコミュニケーションといった雑務があります。
将棋は伝統文化ですが、プロレベルではファンとスポンサーも満足させて興行収益をあげなければ成り立たない以上、客寄せ役はかなり重要です。
プロ棋士にしても女流棋士にしても自分の対局のことばかりを考えているわけではないのです。
LPSAは「女性」を武器にしている
しかし、将棋が本気で強くなりたいと思っている女性の中には客寄せ役を低い待遇で担いたくないと思っている方もいるでしょう。
そこで、かつて女流棋士の一部は日本将棋連盟の女流棋士制度に反発してLPSA( =The Ladies Professional Shogi-player's Association of Japan:日本女子プロ将棋協会)という別団体を立ち上げました。
LPSAの設立前、一部の女流棋士は待遇の低さへの不満を口にしていました。ですから、女流棋士は客寄せ役がイヤというより待遇改善を目的としてLPSAを設立したという感じです。
そのとき日本将棋連盟の男性棋士からは「不満に思う女流棋士は独立すればいい」というような発言もあったといわれています。
LPSAは「女性の、女性による、女性のための将棋団体」という感じで現在も存続しています。
本来、将棋のプレイヤーに性別、顔、年齢、学歴、国籍などは関係なく、将棋は強さこそが価値をもつ世界なのにLPSAは「女性」という逆差別的な括りに閉じこもっている感じがします。

将棋界は実力主義の世界
なお日本将棋連盟の歴代会長(とくに故・大山康晴15世名人以降)はプロ棋士の中でも永世称号級の実績のある人が選ばれるのが慣例になっています。
つまり、将棋界は将棋が強い人が人望を集めるという構図になっているのです。
そのため、女性が将棋界で発言力を高めるには将棋の実力で男性をねじ伏せるような活躍が必要な気もします。
それは酷な話と思うかもしれませんが、奨励会の競争(プロになるための競争)はかなり厳しいですし、プロになってからも負けが込むと強制引退に追い込まれます。
こういう肉体的なハンディキャップがほとんどない厳しい世界では女性にも相応の覚悟と実力が必要だと思います。

女性のプロ棋士が生まれない理由:男は特定分野にのめり込む
女性のプロ棋士が未だに誕生していない理由としては次の仮説が挙げられています。あくまで仮説であって真偽はわかりませんし、私個人の差別でもありません。
- 単純に女性は競技人口が少ないからプロも誕生しにくい(歴史が浅くて人口が拡大していない、女の子に将棋をやらせる親は少ない)
- 昔は若い女性が男性師匠に弟子入りするのは抵抗があった(今はソフトによって強くなれる)
- 生理が集中力を削ぐ
- 集中力が違う(かつて羽生永世七冠は対局中に注文したアイスの存在を忘れていて、溶けてから飲んだことがある)
- 将棋という一つの物事について人生のすべてを賭けるようなレベルでは没頭しにくい(ある有名な男性棋士は将棋の休憩に将棋番組を観戦するくらい1日中ずっと将棋漬け)
- 負けず嫌いの度合いが弱い(小学生のころの藤井竜王は大会で負けて人前で大泣きしたが、女の子で将棋に負けてそこまで泣く子はあまりいない)
- 男の頭脳は上にも下にも散らばり方が大きい(男は頭脳の格差が大きいが、女の頭脳は割と平均的。ノーベル賞受賞者は男ばかりだが、犯罪や無茶をするのも男が多い。)
- 三段リーグの男性は「意地でも女性には負けたくない」とムキになって勝負を挑んでくる
- 女性の脳力が将棋のような合戦型の空間把握に適していない(空間把握が関連する分野ではF1にも女性レーサーはいない)
- 逃げ道があることに安住している(プロ棋士になれなくても女流棋士や結婚という道がある)

三段リーグを戦っている男性は「年齢制限までに勝ち抜かないとプロになれない」という追い詰められた状況下で戦っているのです。※
※三段リーグを退会になってしまったとしても編入試験という特別制度もありますが、受験や合格の要件はそれなりに厳しいです。

これらが正しいのかはよくわかりません。それは脳の優劣ではなく、男と女にはそれぞれ得意・不得意があるだけなのかもしれません。
NHK杯という早指し棋戦では女流棋士が男性プロを負かすこともたまにあるように、女性の競技人口拡大とそれに伴うレベルの底上げを期待したいものです。


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参考将棋のタイトル戦の序列【竜王より名人が格上?】
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