将棋の8大タイトルの序列は上から順に、竜王、名人、王位、王座、棋王、叡王、王将、棋聖となっています。
画像の出典:日本将棋連盟
それは日本将棋連盟の公式サイトを見ても明らか。
ぶっちゃけ「8大タイトルの序列=契約金・賞金額の多さ順」みたいなものです。
しかし、竜王と名人の序列には将棋界の歴史と忖度が含まれています。
将棋のタイトル戦の序列は竜王と名人が別格に高く、あとの6タイトルの序列はどんぐりの背比べみたいなもの。
6タイトルについては序列が変動したこともありました。
参考:将棋のタイトル戦一覧
タイトル戦名と 読み方 |
優勝賞金 | 主催者 | 本戦の方式と 挑戦者の条件 |
予選の方式 | タイトル戦の持ち時間 | 番勝負数 | 時期 | プロ以外の参加枠 |
竜王戦 りゅうおうせん |
4400万円 | 読売新聞社 | 変則トーナメントの優勝者 | 組別トーナメント | 2日制8時間 | 7 | 10~12月 | あり |
名人戦 めいじんせん |
推定2200万円 | 朝日新聞社 毎日新聞社 |
A級順位戦の1位 | 順位戦(リーグ戦) | 2日制9時間 | 7 | 4~6月 | なし |
王位戦 おういせん |
推定1200万円 | 新聞三社連合 | 紅組リーグ1位と 白組リーグ1位で挑戦者決定戦 |
トーナメント | 2日制8時間 | 7 | 7~9月 | あり |
王座戦 おうざせん |
推定900万円 | 日本経済新聞社 | トーナメントの優勝者 | トーナメント | 1日制5時間 | 5 | 9~10月 | あり |
棋王戦 きおうせん |
推定700万円 | 共同通信社 | トーナメントの優勝者 | トーナメント | 1日制4時間 | 5 | 2~3月 | あり |
叡王戦 えいおうせん |
推定600万円 | 不二家 | トーナメントの優勝者 | 段位別トーナメント | 1日制4時間 | 5 | 7~9月 | あり |
王将戦 おうしょうせん |
推定500万円 | スポニチ 毎日新聞社 |
リーグ戦の1位 | トーナメント | 2日制8時間 | 7 | 1~3月 | なし |
棋聖戦 きせいせん |
推定400万円 | 産経新聞社 | トーナメントの優勝者 | トーナメント | 1日制4時間 | 5 | 6~7月 | あり |
※棋士への報酬は賞金のほかに対局料や景品もあります。賞金や対局料は非公開部分も多いです。
※棋士は解説、指導、出版、講演といった手段から副収入も得ています。
※プロ以外の参加枠とは女流棋士やアマチュアのトップクラスが参加できるかということです。
※上位の棋士はシード権をもっています。
※本戦がトーナメント方式だと決勝戦(=挑戦者決定戦)は番勝負になる棋戦もあります。
将棋のタイトル戦の序列【名前の順番へのこだわり】
そもそも人間、とくに日本人は名前の前後や上下関係にこだわります。
たとえば2002年の共催ワールドカップは日本では通称としては「日韓ワールドカップ」と呼ばれています。
しかし、韓国では「韓日ワールドカップ」、FIFA公式サイトでは「FIFA World Cup Korea/Japan」と呼ばれています。
たぶん、今でも日本人の多くは「FIFA World Cup Japan/Korea」と呼ばれたいと考えているでしょう。自分側の名前が前になるか後になるかは大きな問題なのです。
実際、2002年のときも激しい論争があって最大の目玉である決勝戦を日本で行う代わりに「Korea/Japan」にすべきという意見もありました。
最終的に日本語では国名を入れず「2002 FIFAワールドカップ」が日本国内での正式名称となりました。
日韓ワールドカップの経緯は置いておくとして、日本人は上下関係をすごく気にします。
形式的には竜王戦が一番上!
これと同じ発想が将棋界にもあって、竜王戦(読売新聞社主催)は棋戦の中で最もお金を出してもらっている以上、竜王戦の名前は棋戦の一番上にしなければならないという考え方があります。
将棋は日本の伝統だけあってタイトル戦は上座と下座にもこだわります。
しかし、どちらが上座に相応しいか迷うパターンもあって、こういう場合ちょっとした事件になったり譲り合いになることもあります。
名人戦は順位戦と一体的で重みがある
さて、形式的には竜王戦が最上位の棋戦だとしても棋士の心情としては名人戦こそが最上位といえなくもありません。
- 順位戦A級の覇者が名人へと挑戦できる
- 順位戦は1年近くかかるリーグ戦であり、リーグ戦には重みがある
- 順位戦で高いクラスに所属していると他棋戦はシードされる
- 順位戦C級2組からフリークラスへと降級すると引退にかなり近づいてしまう
- 順位戦は前もって対策する時間がたくさんある
- 名人戦は賞金の序列2位
- 順位戦と名人戦は昇段規定も優遇
- 「将棋界の一番長い日」
- 称号と歴史の重み
それは以上のような理由にもとづきます。
そもそも名人戦はフリークラス以外の全棋士を5段階のクラスに分けた1年間にわたるリーグ戦(=順位戦)のうち、最上位リーグであるA級の1位が挑戦者となります。名人戦と順位戦はワンセットなのです。
竜王戦予選は1~6の組ごとのトーナメント戦、順位戦はA級~C級2組までの組ごとにリーグ戦方式で対局します。順位戦のA級とB級1組だけは総当たり。
竜王戦の所属組は他棋戦に影響しませんが、順位戦の所属級が高いと他棋戦ではシードされる場合があります。この違いは結構大きいです。
名人戦は一発屋的なチャンスがない
A級以外の順位戦においては毎年上位2~3名が昇級し、下位2~3名が降級となります(C級2組からの降級だけは特殊)。
当然、上の組へ行くほど人数は少ないです。
C級2組から規定の降級点をとってしまうと、あるいはフリークラスを宣言すると、フリークラスに入ります。フリークラス棋士は、棋士の最も基本的な棋戦といえる順位戦に参加することができません。
フリークラス棋士は規定にあてはまると強制引退となります。
藤井聡太四段(プロ入り当初の段位)のような天才棋士でもプロに入りたてはC級2組からスタートになります。
すなわち、プロ入りから名人戦の挑戦者になるまでは最短でも5年はかかるということ。挑戦者になるのでさえもここまで時間がかかるプロ競技は珍しいです。
しかし、竜王戦は変則トーナメントであるため、プロ1年目の棋士でも挑戦者になることができます。
竜王戦は女流棋士やアマチュアプレイヤーでも勝ち抜けば挑戦者になることできるという夢があります。
ただ、竜王戦は全棋士参加のトーナメント戦ですから一発屋的なチャンスがある一方で、順位戦はリーグ戦ですから一発屋的なチャンスがまるでありません。
そのうえ順位戦はリーグ戦である以上、前もって対局相手がわかり十分に対策しておくことができます。トーナメント戦ではそこまでの準備時間はありません。
また竜王戦は前身の棋戦を踏まえて考えると1948年から始まりましたが、名人戦は1600年代からの長~い伝統がございます。
名人に挑戦すること、そして名人位をとることはそれだけ重みがあるのです。
一般に将棋界では持ち時間の長い棋戦の方が権威があります。持ち時間はそれなりに長い方が棋士の真の強さを計れるからです。
A級の順位戦最終局は俗に「将棋界の一番長い日」と呼ばれるのも、持ち時間と歴史はもちろん、1年間にわたるリーグ戦という形式に重みがあるから。
名人戦の別格感は強い
将棋のタイトルは連続在位や通算5~10期のタイトル獲得によって「永世」を名乗ることができます。
しかし、実力制名人位を初めて獲得したときは「実力制第●代名人」という称号を得ることができます。名人位は1期だけでも別格なのです。
画像の出典:日本将棋連盟
昇段条件についても九段は、竜王位2期獲得か、名人位1期獲得か、その他タイトル3期獲得か、八段昇後公式戦250勝となっています。
名人位は1期獲得だけで九段へ昇段するように別格なのです。
名人は挑戦までに時間がかかるため、名人をとるような棋士は挑戦の時点で八段~九段が当たり前ですが。
子どもやアマチュアから見ても名人の方が格上
つまり、竜王戦の方が賞金額としての序列は上だとしても、名人戦はリーグ式の順位戦を勝ち抜くための長い時間と伝統の重みと称号の別格感がある以上、棋士の本音としての序列は名人戦が上だということです。
弱小アマチュアの私でさえこんな意識をもっていますから、当のプロ棋士だって内心では名人戦の方が上だと思っているはずです。
まあ棋士は最も多い賞金を出してもらっている建前としては「竜王戦こそが最上位の棋戦」だといわないといけないわけですが。
竜王戦は金額上の序列1位、名人戦は伝統上の1位
名人戦も賞金・対局料は2番手なので高い方です。
また優勝者の賞金・対局料は竜王戦の方が高いとしても、下位のプレイヤーにとっては順位戦の方が高いかもしれません。
ある有名棋士の建前
前にテレビのドキュメンタリー番組である有名棋士が「新聞は全部で7紙をとっている」といっていました。これは将棋会館として契約している数字ではなく私邸で私的にとっている数字です。
全国紙には将棋の棋譜や将棋講座が載っていますから、将棋の勉強のために7紙もとるのはありえなくもありません。
しかし、そのドキュメンタリー番組が放映されたときはすでにインターネットが普及していた時代です。
周知のように今はインターネットを適当に検索すれば棋譜は大量に見つかります。
こういう時代では新聞を参考にするよりも画面で棋譜を動かして見た方が手っ取り早いに決まっています。新聞の将棋欄は小さいし、新聞の将棋講座はアマチュア向けですし。
それでも個人として新聞を7紙もとるのは、棋戦の大スポンサー様である新聞社の顔を立てているからでしょう。
将棋は日本の伝統文化、そしてお世話になっている人の前では建前を示すことも日本の伝統なのです…。
-
参考将棋の女流棋士は差別ではなく逆差別だ【男女別は錯覚】
続きを見る