刑法は刑罰について定めた法律、道路交通法は道路交通について定めた法律というように、ほとんどの法の中身は法の名前を見ただけでなんとなくわかるものです。
しかし、憲法は「憲」という文字からは何のための法かよくわかりませんよね。
そこでこのページでは社会科学の商業出版本の著者である私がわかりやすく解説いたします。
憲法とは何かを理解したら、ぜひあなたの知り合いにも教えてあげてください。
憲法とは何か:法律との違い
さて、日本国の法を決める機関といえば国会です。基本的に国会議員は法案について過半数の賛成によって可決することができます。つまり、多数決。
多数決にもとづいてできた法律はその後、公布・施行されます。法律は強制力のあるルールですから、すべての国民は従わなければなりません。
公布とは知らせること、施行とは法令の効果を発生させることを意味します。
要するに、国会で法案を可決したとしてもすぐに効果が発生するのではなく、一定期間をおいてから発動するということです。
しかし、ここでちょっと考えてみてください。「多数決ならどんな内容の法律でも議員は可決できるの?」と。
結論からいうと、それはありえません。なぜなら憲法に反するからです(=違憲)。
たとえば「殺人を犯したと疑われる者に対しては、公務員は暴力を使って自白させてもいい」というような法律をつくることはできません。
これは、日本国憲法第三十六条の”公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。”に反するからです。
つまり、憲法以外の法は憲法に反してはいけないため、そのような自白を暴力的に強要する法律をつくることはできないのです。
その意味では憲法(=国家の基本的なおきて)は一国の法体系の中で頂点にあるといえます。
憲法は公権力が守るべき法
憲法は公権力が法律をつくる際の歯止め役になり、公務員は憲法に反することをやってはいけないわけですから、公権力が守るべき色彩が強い法だといえます。
憲法は公権力が不当なことをやってはいけないと定めているおかげで、一般国民には人権が保障されているのです。
※法と法律と憲法の違い
法法全般、憲法も法律も含んだ広い概念
法律議会が制定した法、国民が守るべきルール
憲法おもに公権力が守るべき法、一国の最高法規
憲法の簡単な歴史:十七条憲法~近代憲法
ここで日本史について知識のある人は7世紀・聖徳太子の時代の日本では「十七条憲法」があったのを思い出すでしょう。
しかし、十七条憲法は役人の心構えを説くものであって国家権力を制限しようとする法ではありません。
国家権力を制限しようとする法は13世紀イギリスのマグナカルタに始まるという説が有力です。
国家権力を制限しようとする法は、近代での革命を通じてアメリカやフランスにも広がり、やがて終戦後の日本にもたどり着きました。
このように憲法には近代で確立した経緯があるため、国家権力を制限するという意味での憲法は近代憲法と呼ばれます。
憲法は不磨の大典ではない
憲法は別格の法だということがわかっていただけたかと思います。
そのため、憲法を変える際の要件はその他法律よりもそろえるのが難しいのが普通です。
しかし、憲法は別格の法とはいっても何十年にもわたって一か所も変えずに運用し続けるのは難しいです。
つまり、憲法もときには時代の変化に応じて変えるべき部分もあるといえます。
憲法の問題点
最後に日本国憲法の問題点を少し記します。
このあたりはちょっと難しく、また結論や正解があるわけでもないので、気になったらご自身で調べてみてください。
- 憲法は私人や私企業にも適用できるのか
基本的に憲法は公権力を縛るものです。
そのため私企業の人材採用などに憲法の規定を直接的に適用するのは難しいですが、私人にも間接的に適用できる余地はあるといわれています。
- 憲法9条は自衛隊との関係で明らかに矛盾しているのではないか
日本国憲法9条には”日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。”とあります
要するに、憲法9条は戦力の不保持を定めているのに、日本国が自衛隊という巨大戦力を抱えているのは明らかに矛盾しているというわけです。
これを根本的に解決するには、9条を守るために自衛隊を廃止するか、自衛隊を認めるために9条を変えるしかありません。
- 憲法の人権保障は外国人にもおよぶのか
憲法は一国の公権力を縛り、その恩恵として国民の人権も保障されるという構造になっています。それでは人権保障は外国人にもおよぶのでしょうか。
結論から言うと、憲法の効力はおよぶ面とおよばない面とがあります。およばない面の代表格は国政への参政権です。
日本の国政(議員や政策)を決めて、そこに責任をもつのは日本国民であるように、日本国民は日本国と一蓮托生ですが、外国人はそういった存在ではありません。
外国人は無責任な決定もできますし、日本が危機的な状況に陥ったら母国に逃げることができます。
また、外国人による国政への参政は内政不干渉の原則に反すると見なすのが通説です。
そのため日本に限らず各国では外国人の参政権は大きく制限されているのが現実。
まとめ
以上が憲法の基本でした。
そんなに難しくありませんが、筆者がこの内容を知ったのは大学生になってからだったと記憶しています。
単に不勉強だったのかもしれませんが、知るタイミングは遅かったと思います。
そのため今の若い世代には早い段階で知っておいてほしいです。