NHKの『バラエティー生活笑百科』や日本テレビの『行列のできる法律相談所』を見て「法律って身近だし楽しそうだから法学部に入りたい」って思った人はいませんか。
確かにバラエティ番組で出てくる法律や裁判例、そしてそれを理路整然と解説する弁護士は興味を引きます。
もちろん、社会人レベルで見ても法律系の資格や勉強に興味をもつ方はいるでしょう。
しかし、人によっては法学はつまらない(つらい)学問かもしれません。なぜなら法学は細かいレベルで型に強くはめられるところがあるからです。
今回はこのあたりを解説します。
法学部とは何か、「つまらない」の根源は?
そもそも法学部は法について学ぶ学部です。法学部の中には政治学科やビジネス法務を開設している大学もありますが、ここでは一般的な法律学科で学ぶ内容について述べていきます。
なお、筆者は近代法と近代経済と近代政治について解説した社会科学の本を商業出版した実績があります。
さらに学生時代には法学と経済学と政治学を履修していますので、ここでの記述も信頼いただきたいと思います。
まずは憲法と民法と刑法から
さて、法学部は法について学ぶ学部ですから法なら何でもありかといえば、とくに教養課程(1・2年生)ではあまりありません。
法学部の教養課程は憲法と民法と刑法という基礎的な法を中心に学ぶことが普通だからです。
基礎を固めてから応用に向かっていく、これはスポーツでも学問でも同じようなものです。
こうした基礎的な法を学んだら人によっては、行政法、国際法、商法、会社法、知財法、労働法、そして立法論を学んでいくことになります。
法は、もとの条文それ自体には著作権がなく広く一般に公開されていますので、たとえば憲法なら以下を参考にしてください。
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参考憲法とは何か、法律との違いをわかりやすく説明【一国の頂点やで】
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憲法の基礎から適性がわかる
上のリンク先で憲法を適当に眺めて、これに滅入るようだったら法学部は向いていません。
それに加えて一つ、法学部生の適性を図る条文を出したいと思います。
”日本国憲法第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。”
この基礎的な条文を見たときに、
- 「すべて国民は」というなら外国人はどうなるの?
- 日本人は日本人でも未成年と成人では扱いが違うんじゃない?
- 「健康で文化的な最低限度の生活」って具体的にどの程度のものなの?
という疑問と好奇心が湧いてくる人は法学部に向いています。逆にそういった好奇心が出てこないのなら法学部はやめた方がよいかもしれません。
基礎的な条文にはそれぞれ通説と呼ばれる多くの有識者によって妥当と見なされる説があり、憲法25条の対象や程度についても通説があります。
この通説とそれにまつわる論争・解釈と、判例という過去の判決例の中でも先例としての拘束力をもつ裁判例を見ることが法学部の基本です。
民法の難しさとつまらなさ
憲法の条文はそんなに多くなく難易度も高くないのですが、民法は約1050もの条文数があり、刑法は一つ一つの条文や用語が難しいです。
民法や刑法の条文解釈は法曹には必須としても民間企業に就職する学生から見ると「さすがに細かくないか、これが企業で役に立つのか?」と思うことがあります。
そもそも民法とは、
- 総則
- 物に対する権利
- 人に対する権利
- 家族
- 相続
などを定めるなど身近な法です。1~3に関する知識は買い物のときに役立ちます。
しかし、大学レベルの法律知識がなくても大半の買い物には不自由しませんが、法学部の民法はそこに細かく突っ込んでいきます。
たとえば「民法における物って何?ペットや電気は法的には物として扱われるの?」という感じです。
このように身近な法であっても根本的なところを細かく見ていきたいという人に法学部は向いていますが、そんなに細かく知りたくもない人も多いでしょう。
後者のタイプには法学はかなりつまらなく映るはずです。これが法学部のつまらなさの原因だといえます。
法学にしても経済学にしても学問というのは根本的なところを探究するのが基本。
したがって「生活レベルの法律をちょっと知りたい」くらいの動機で法学部に行くとつまらなく感じてしまいます。
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法学は条文の丸暗記ではない
さて、ここで重要なのは法学は丸暗記で対処すべきではない(対処しにくい)ということです。
たとえば、さきほどの憲法25条の条文を丸暗記していても試験ではほとんど役立ちません。
法学系の試験では六法全書の持ち込みが許可されていることが多く、その試験問題も妥当な解釈を問うなど法をきちんと理解して論理的に記述できるかがポイントになるからです。
判例についても丸暗記ではなく、要点を理解していなければ高得点はとれません。
そもそも法の条文(とくに基礎的な法)は、憲法の条文それぞれを見てもわかるように抽象的にできています。
抽象的というのは少ない条文数で社会の様々な事態に対応できるようにしてあるということです。
これについて社会のどんな事態にも対応すべく条文数を多くするという方法もありますが、それでは条文数はとんでもない数に膨れ上がってしまいます。
また、それでも起こることが想定できないケースも社会には存在します。そこでどんなケースにも対応すべく、条文を抽象的にするのです。
こういう抽象的な理解度や社会への応用力を試すには、丸暗記の試験問題では意味がないというわけです。
法学部では型が身につく
法学部のよいところは、経済学部と同様に明確な型が身につくこと。
法学ではみんなに共通の基本用語と判例を覚えて、論理的に記述するという型に縛られるからです。
このような型は、とくに法曹や公務員、企業法務などでは役立つでしょう。
大学を卒業したときに「自分は型を身につけてよかった」と思いたい人は法学部が向いています。
基本的な型が身についている人なら、法改正に直面したときでも変化に対応できるはずです。
逆に、型に縛られるのが嫌いな人は法学部に向いていません。
条文解釈や判例について型にはめ込まれるのがイヤという人には法学部はとてもつまらなく映るはずです。
日本の法学は閉鎖的
しかも、日本の法学界は今も昔も東大法学部出身の学者の権威がやたらと強いため、どこの大学の法学部に所属していても、昔から受け継がれてきた東大流の法的解釈がすり込まされます。
確かに東大流の法解釈は基本的にはよくできているのですが、なかには「もう時代遅れなんじゃない?」とクビを傾げたくなる法解釈もあります。
この点、理系の学問や経済学は世界的に内容が共通していますし、既存の説がおかしければ普遍的に通用する数学や論理でもって論破できます。
しかし、法は先進国では共通性が見られるとはいえ、日本の法体系は英米とヨーロッパ大陸と日本流が入り混じっているため複雑です。
そこでは日本法の既存の説がおかしくても理系の学問や経済学のように数学を使ってキレイに論破できません。
外国人から「日本法っておかしくない?」と指摘されても、「日本法は日本社会の複雑な事情をくんでいるからこれでいいのだ」と反論できるからです。
つまり、理系の学者や経済学者は世界共通レベルの次元にさらされますが、法学者は日本だけで活躍しても権威がもてるのです(お山の大将?)。
こういう日本法の閉鎖性は民間企業の足かせになっている面もあります。
法学部の卒業生の進路と人気ぶり
法学部の進路で最も多いのは民間企業への就職。公務員への就職も多いです。法学部は文系の中では偏差値が高いうえに、つぶしがきく学部だといえます。
他学部よりも公務員が多いのは公務員試験では法学系の設問がやや多く、また公務員としての実務も法律に沿っているからです。
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経済学部との対照性
なお法学部とよく比べられる学部に経済学部があります。この経済学部も、とくに教養課程では型に縛られます。
ただし、法学の型は「言葉と歴史と社会の論理に沿った型」という感じですが、経済学の型は「経済と数理モデルに沿った型」という感じです。
経済学は文系の一角と見なされながらも、理系の要素も少なからず入った分野だということを覚悟しておく必要があります。
経済学は法学に比べると暗記量はまだ少ないため、数学力を活かして暗記量を少なくしたい人にはおすすめです。
法学部のメリットとデメリットを確認
ここで法学部のメリットを確認しましょう。
- 法律の知識がつく
- 型が身につく
- 学部の内容を説明する必要があまりない
- 就職のつぶしが利く
- 公務員就職には有利
- 文系の中では偏差値が高い(権威がある)
- OBが多い
逆にデメリット(人によってはつまらなさ)は、
- 法学部における法律の知識は法曹以外にとっては細かい
- 型に縛られる
- 閉鎖的なところがある
- 入学してからもそれなりの勉強量が必要
- 人によっては学ぶ内容が面白くない
ということです。
法は学際系学部で教養として学ぶ手もある
法曹や法学者のような専門職をめざすなら法学部がふさわしいですが、それをめざさないのなら筆者のように学際系学部(総合政策学部)で社会科学全般を履修するというのもありでしょう。
ここではさまざまな学問をつまみ食いできますし、ビジネス系の科目やプログラミングも履修できます。
また、教授陣も外部の企業や省庁を経験した実務家タイプが多いです。
大学時代の貴重な4年間を有意義に過ごしていただけたらと思います。
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