このページをご覧になっているあなたは、国会が法律を決めて、公務員(役所や警察官など)はその法律にもとづき動いて、裁判所は紛争について法的判断を下すということをご存知でしょう。
このとき、法律を決める国会を立法権、法的判断を下す裁判所を司法権、そのほかの公務員の権限を行政権といいます。これが三権です。
そして三権がたがいにバランスを保って権力の濫用を防ぐことを三権分立といいます。
行政国家とは何か:行政権が強い国
ここで重要なのは、三権の強さは国家や時代によって違うということです。
現代では基本的に行政国家といって行政権の力が強い傾向があります。その意味では三権は存立しているものの、三権のバランスはとれていませんから、厳密なレベルでの三権分立の国家は存在しないともいえます。
行政国家とは、官僚や警察といった行政系の公務員が規模や権限の面で大きいことを意味します。
行政国家へと至った背景
行政国家へと至った歴史的背景としては人々の長寿化と文明の発達があります。
たとえば江戸時代の日本は現代のように食料や医療が充実していなかったので、人々の平均寿命は30代くらいでした。
しかし、そこから時が経るにつれて食料や医療はかなり充実したために平均寿命は大きく伸びました。
つまり、江戸時代だと働き盛りの年齢のまま死ぬことが普通でしたが、現代では60歳~70歳くらいで仕事を辞めて、なおかつ80歳くらいまで生きるということが普通になったのです。
そうなると、国民は政府に老後も安心して生きられるように社会保障の充実をもとめます。
実際、先進国を中心に現代では社会保障は昔に比べるとかなり充実しました。こういう現象は福祉国家と呼ばれます。
国家の膨大な事務処理は行政権が担当する
しかしというか当然というべきか、政府は社会保障を充実させたために社会保障の制度内容や事務処理もかなり複雑になってしまいました。
こういう専門的で複雑な分野は高学歴の官僚がそれなりに必要。普通の事務処理を担う役人(市区町村役所の公務員)はもっと多くの数が必要です。
国会議員は衆参あわせて700人程度ですが、官僚(エリート国家公務員)は1万人ちょっといます。地方公務員としての警察官は約26万人もいます。
ちなみに現代の各国では軽い交通違反の取り締まりは民間に任せるのが普通になってきています。
議員は選挙で多く票をとればおバカさんでもなれますが、官僚は高学歴の人間がたくさん受験する難関試験で高得点をとって、さらに面接に受からなければなりません。
そこで、優秀な学力をもつ官僚に事務処理や政策の分析・立案、立法、関連組織への指導と許認可などを任せているのです。
法律をつくる機関といえば国会(立法府)と思っている人も多いでしょうが、現代では官僚に任せている部分が大きいです。
これは社会保障の分野だけでなく、財務、警察、消防、防衛、教育、農業、通信、エネルギー、道路、医療・医薬品、環境問題、といった各行政にもいえます。
文明の発達によって現代の行政がなすべき事務処理量はかなり増えたのです。
一般に国家のあり方を決めるのは国会議員だと思われがちですが、現代では行政権の比重が大きいのです。
とくに日本は世界的に見ても三権(立法・司法・行政)のうち行政権の比重がかなり大きい国家として知られています。
行政国家現象の問題
次に行政国家現象の問題について見ていきましょう。
そもそも官僚に採用されるのはその国の国民が基本とはいえ、官僚は選挙を通じて選ばれた存在ではありません。
つまり、官僚は議員に比べると非民主的な存在といえるわけです。
また、官僚は裁量で動く余地が大きいです。たとえば警察はすべての交通違反者を検挙することが理想ですが、それは不可能です。
そこで警察は時間と場所を決めて取り締まりや検問を行うわけですが、それはそれぞれの警察の判断に任されています。
その気になれば、検問で見つけた罰金をとるべき人を見逃すことだってできるでしょう。これが「行政の裁量は大きい」という状態です。
このように選挙で選ばれておらず、また裁量が大きい公職者たちが国家の行く末を決めてよいのかというのが行政国家の最大の問題です。
官僚は制度を必要以上に複雑化させている?
一般に官僚は自分たちの職務範囲や予算を拡大させたがります。自分たちが担当する職務範囲や予算を拡大すればするほど官僚は評価されるからです(現在は是正されている部分もあります)。
行政国家は肥大化する傾向にあるといえます。
民間企業では会社の売上・利益に貢献すれば査定が上がりますが、官僚は税金で動いているだけあって行動原理が違うのです。
しかし、官僚の中には「制度を必要以上に複雑化させれば、議員や大衆は我々(官僚)の実態をつかめなくなって我々のやりたいようにできる」と考える人もいます。
実際、日本の官僚は省庁を退職した後、それまでの省庁の業務に関連する会社に就職したり、関連する組織をつくる傾向があります。
これがいわゆる天下りです。彼らは自分たちが関連する業務領域に利益をもたらそうと動きます。
ここでは税金が必要以上に浪費されています。
官僚は現代で国家の運営にとって必要不可欠な存在なのですが、その存在が悪影響を及ぼしている面もあるのです。
たとえば総務省が電波を管理するのは当然の業務です。国民それぞれが自分勝手に電波を使ったら社会は大混乱してしまいますから。
総務省がその強大な権限を濫用しなければいいんですけどね。
省益か公益か
本来、官僚は公共の利益に貢献しなければならない存在ですが、実態としては自分が所属している省庁とその関連組織の利益(=省益)が優先されています。
とくに官僚は自分たちの職務範囲に関しては保守的であるため、昔からの企業とのコネや現状維持を大切にします。官僚が大きく関わる業種では新陳代謝が進みにくくなるのです。
こういう現象は「国益・公益よりも省益が優先されている」と批判されます。
まとめ
政治といえば地方や国の議会を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、それは建前みたいなもので実際には行政の力が強いといえます。
国会議員の中には民間の経営コンサルタントや官僚の出身で有能な人もおり、彼らは行政国家のプラス面もマイナス面もよく理解しているでしょう。
行政国家の問題を完全に解決することはできないでしょうが、適度なバランスをとることくらいは民主主義国家の有権者としてもとめたいものです。
パチンコは規制厳格化によって店とメーカーは窮地に追い込まれているようにパチンコ利権は昔より弱まっています。
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