みなさんは「政府の役割」を知っていますか。
基本的に政府は国民に安心して生活してもらうために国家の安定感を高め、全体のルールづくりをすすめ、おもに市場原理が及ばない領域で活動します。
これだけではよくわからないと思うので、かみ砕いて解説していきます。
政府の役割【市場経済との関係】
たとえば今あなたは飲食店を起業しようとしているとします。
飲食店の経営が成功するかは、料理がうまいか、立地がいいか、居心地がいいか、他店と差別化できているかなどに左右されます。
ここで重要なのは、経営の成功以前にどんな飲食店を開業するのにもみんなに共通して必要な条件があるということ。
それは国が平和であること(=国防)、店で火事や食い逃げが起きたときに専門的な組織に対処してもらうこと(=消防や警察)です。
国が平和でないと料理の材料はまともに手に入りませんし、客は来てくれません。
それから火事や食い逃げが起きたときに対処してもらえる組織がないと安心して経営できません。素人が火事や食い逃げに対処するのは難しいですからね。
でも、考えてもみてください。飲食店の経営においては店が料理を提供し客は対価を支払い、店にとってはコスト以上に客から得られる代金の合計が大きければ黒字となります。
しかし、だれかが国防、防災、警察を事業として営んでも利益になりません。利益にならないとは民間企業は参入しないことを意味します。
たとえば食い逃げの通報があって警察が出動した際、警察が出動するたびに飲食店が費用を直接支払うのはおかしいでしょう。
いけないのは食い逃げをしでかした輩であって、お店ではありませんし、それでは食い逃げの被害に遭うほどコストがかさんでしまうからです。
そのため、国防、消防、警察みたいな直接的な利益にはならないけどみんなに共通して必要な分野は税金(みんなが出したお金)によって運営します。これが政府の最たる役割になります。
国防に関する分野は政府の重要な役割
国防といえば軍事力を想起する人が多いかもしれません。それも間違いありませんが、外交、入国管理、検疫、刑務所運営なども国防に関して行うべき重要な政府の役割です。
とくに日本では原油という超重要資源がほとんどとれないため、産油国と仲良くすることは重要。
また日本の工業製品を買ってもらうためには海外全般と仲良くすることも重要。そう考えると外交業務は国防だけでなく、経済振興にも役立っているわけです。
政府が役割として担う分野にもとめられやすい要件
- 民間企業が参入しにくい(金銭的な利益が得られにくい)
- 一部の人や組織だけでなく全体のためになっている(公共性が高い)
- 国の安定感や国民の安心につながる
- 民間企業の営利活動を邪魔しない
- 税金を支出しても批判されにくい
通貨発行権についてわかりやすく
さて、政府の第一義的な役割としては通貨の発行もとても重要です。昨今の世界ではキャッシュレス化が進んでいますが、日本では現金も未だに強いといえます。
しかし、よく考えると現金ってものスゴイと思いませんか。
貴金属ではない金属の塊(硬貨)に500円もの価値があったり、単なる紙っぺら(紙幣)に1000円~10000円もの価値があるからです。牛丼屋で1万円札を差し出したら牛丼並盛が30杯くらいは食べられますからね。
単なる金属の塊や紙っぺらになぜそんな価値があるかというと、みんなで価値を信じ込んでいるから。これを学術的には「共同幻想」といいます。
消費者も牛丼屋の店員も福沢諭吉さんの肖像画が描かれた紙っぺらは10000円の価値があると共同で信じているからこそ、消費者は10000円を支払えば30杯もの牛丼を提供してもらえるわけです。
こんなにすごい力をもった紙幣は、みんなに共通の存在である政府系の組織が発行するしかありません。このような権限を通貨発行権といいます。通貨は国家経済の中心です。
紙幣は紙っぺらでありながらもすごい力をもっているだけに偽札の作成や使用は経済を混乱させます。
そのため、どんな国でも偽札の作成や使用は法律で重罪と定められています。
政府および紙幣が信用されていない国で紙幣は紙くずに毛が生えたくらいの価値しかありません。紙幣は紙っぺらだけにみんなが信用していないと単なる紙くずになってしまうのです。
紙幣の信用が保たれるには、紙幣を発行する政府が信用されている、紙幣が使えるという共同幻想を保つ、国民が教育されている、偽札が流通していない、といった要素が重要です。
政府の第一義的な役割
- 国防、警察、消防
- 外交、出入国管理、検疫、刑務所運営なども国防関連の役割
- 税の徴収
- 通貨の発行
たとえば消防においては予防も重要。
すなわち、火事が起きたら火を消すことだけでなく、普段から消防設備を見回ったり消防法に反しているお店を指導することも重要なのです。
こういう発想は国防や警察、そして防災、治水、衛生などにも通じます。
政府は法と予算と方針に沿って動く
世の中には政府の役割はなるべく小さくすべきと考える人もいます。そんな小さな政府論者でも賛成するのが、国防は政府にとって第一の役割だということ。
で、国防軍は政府系の組織ですから政府が定めた法と予算と方針に沿って動かなければなりません。
このように政府が関わる分野について法と予算と方針を定めることも政府の重要な役割だといえます。
飲食店の起業に際しても、飲食店は食品衛生法、消防法、消費税法、労働基準法といった法を守らなければなりません。
こういった基準は時代によっても変わるため、政府はときには基準を見直すことも必要です。
法律は全国的に通用する強制力のあるルール。
条例は地域の法律。
参考:政府は行政と立法と司法から構成される
- 立法(議会)法律や税制を作成・改廃したり予算を承認したりする
- 司法(裁判所)人々の争いに法を適用し、違法・適法や権利義務を確定する
- 行政(それぞれの省庁や役所)立法と司法が担当すること以外の全般を法に沿って行う
インフラは政府の役割か:整備と運営は違う
さて、飲食を起業する際には国防、消防、警察以外にも必要な要件があります。
それは電力や電話、水道、ガス、道路、鉄道などが整っていること。こういった社会基盤をインフラストラクチャー(略してインフラ)といいます。
エネルギーがないと食材を調理できませんし、道路や鉄道が整っていないと食材をまともに搬入できませんから、飲食店を開業する場所はインフラが整っているところにするのが普通です。
こういった分野は未発達の段階では政府が担うところが大きいものの、運営段階は民間企業が担うのが大きくなります。
たとえば、日本にまったく高速鉄道が存在しない時代では政府が中心となってインフラを全国的に整備すべきです。
高速鉄道の建設には広大な用地とその買収が必要ですが、これを民間企業が担うと強制力やスピード感が欠けるからです。
この点、政府系の企業が用地買収と建設を担えば全国規模で事業を強力に推進することができます。かつての日本国有鉄道(国鉄)はそんな感じでした。
しかし、国鉄はムダがとても多く莫大な赤字を出していた組織でした。国鉄は鉄道需要がかなり小さい田舎にも立派な路線を建設していたからです。政府および国営企業は需要を過大に見積もる傾向があるのです。
そこで政府は、国鉄の経営は国鉄を民営化した会社(=JR各社)に任せることにしました。
民間企業は無駄遣いを減らして利益を増やそうとする性質があるためインフラの経営に適しているからです。
電力、電話、ガス、道路なんかも未発達段階は政府色が強くて、整備が成熟してくると民間企業に任せる割合が大きくなります。
電電公社⇒NTTグループ、道路公団⇒NEXCOなんかもそのパターン。
インフラ事業においては計画策定や地元住民の説得は議会と行政が担い、建設は民間の建設会社が担い、経営は民間企業や第三セクター(政府と民間が出資した事業体)が担うという感じです。
ただし、日本の水道事業は未だに自治体が担うところが大きいです。
社会保障は全体のためにもなっている
次に社会保障について。
飲食店を起業すると成功する人もいれば失敗する人も出てきます。
事業に失敗した人を野放しにしておくことは治安にとってよくないのは想像がつきますよね。
そこで政府は経営に困っている人に補助金を出したり、失業者に職を紹介したりします。
その意味では失業対策は個人の問題というより社会の問題(みんなの問題)だといえます。
また政府が累進課税や社会保険によって金持ちから貧困層にお金をいくらかまわすことも重要です。
国民にはお店に入る前の時点でも教育が必要
それから飲食店を起業する際には雇う人材と教育も必要。
文字の読み書き、一定の計算能力と知識、マナー、コミュニケーション能力などはどんな人物にももとめたいところです。
以上を一定レベルで子どもたちに身につけさせるのが小学校・中学校という義務教育課程(公教育)。
どんな進路を歩む子どもにとっても共通して必要な最低限度の知識や行動を学ぶのが義務教育だといえます。
義務教育においては教育指導要領といって教える内容は政府によって定められているように政府が担う度合いが大きいです。
この点、大学教育は義務教育ではないため、各大学・各学部が自由に教える度合いが大きいです。
ただし、大学の中でも医学部医学科の学校数と定員は国家の医師数を左右するとても重要な設定。
そのため医学科は他の学科に比べると政府が介入する余地が大きくなります。
政府の第二義的な役割
- インフラの計画策定や用地買収、説得、設置
- 防災、治水、衛生(予防的な安全業務)
- 社会保障
- 公教育
政府の役割の中でも否定論も見られる分野
さて、公務員はみんなに納めてもらった税金が給料となりますし、公務員の活動そのものには税金が必要です。
そのため公務員としては税金を多くとりたいところですが、ただ一方的に税率を上げたら批判されるに決まっています。
そこで民間企業を助けて彼らの収益が高くなるように図ります。民間企業の収益が上がれば納めてくれる税額も大きくなるから。政府は民間企業の収益も税収も上げたがるものなのです。
具体的には、たとえば大規模な工業用地を確保して工場を誘致し国際競争の高い工場を稼働してもらったり、国際競争力をつけるために業界再編を促したりします。
このように政府が特定の産業を育てたり保護する政策を産業政策といいます。
しかし、産業政策は政府と縁の深い会社にばかり利益がもたらされたり、本来なら倒産するべき古い業種を保護して新しい業種の芽を摘んだりします。
ジャパンディスプレイという政府主導の上場企業はダメダメですからね。
政府は税金を使う以上、公共性の高い分野で活動すべきであって、特定企業の便宜ばかりを図るのは不公平です。
そもそも国防や公共事業は政府の本質的な役割ですが、産業政策はそれに比べると蛇足感があります。
また文化振興策の決定版ともいえる東京オリンピックは、当初数千億円の予算とかいっていたものの、最終的には3兆円もかかるとかいっています。ここには無駄遣いもかなり含まれています。
やはり議会・行政の好き勝手ばかりにさせていては予算が足りません。
政府は景気を上昇させたがるがそう簡単に行かない理由
- 財源が限られている
- すごい好景気が来たとしてもすぐに失速するようでは意味がない
- 経済はコントロールしにくい
民間企業や民間人の自由に歯止めをかけること
さて、インターネットで健康食品を眺めていると「○○に効く!」みたいな広告を見つけることがあります。
でも、そういう広告を見ると「本当なの?本当だとしても大げさなんじゃない?」とか思うはずです。
で、もしその健康食品の宣伝効能がウソだったとすると競合他社にとっては不公平ですし、消費者にとっては害悪がおよびます。
こういう部分に介入するのが消費者庁や厚生労働省。民間企業は利益を自由に追求できるのが原則ですが、不当な手段で追求してはいけませんから役所が立ち入ってくるのです。
この種の例としては、金融ルールを守っていない会社に罰を課すこと、不具合を起こした工業製品の製造者に回収命令を出すことなども該当します。
基準を超えるレベルで環境汚染を垂れ流している工場に罰金を課したり、水産資源を乱獲しないように制限を設けることも民間の営利活動に歯止めをかけることです。
日本には移動・居住の自由があります。そのため、どこに住んでもいいような感じがします。
しかし、山奥にポツンと住まわれると道路や水道、救急搬送などは非効率です。
そのため、行政は国民に住んで欲しくないところは国有地にしたり、インフラをわざと整備しなかったりします。
これも民間人の自由に歯止めをかけるための政策みたいなもの。やはり国土のすべてを開発しまくるのは無理があります。
それから私企業としてのマスコミはスポンサーにとって悪い報道をしたがりません。しかし、国民は企業の悪いニュースも知りたがっています。
そのため、各国には政府とつながりのある国営放送や公共放送があります。
国営放送や公共放送は税金や受信料をもとに運営しているため、民間企業の不祥事も報道することができるのです。
政府の役割:財政の三機能
- 資源配分⇒公共サービスの提供
- 所得再分配⇒累進課税や社会保険、公共事業などによって所得を移転させる
- 経済の安定化⇒景気がよいときには増税によって引き締め、悪いときは減税や公共事業によって景気を上向かせる。
まとめ
細かいことをいうと政府の役割は他にもありますが、基本レベルでは以上です。
「政府」といえば立法府と行政府と司法府の総体を表すのですが、現代では行政府が占める割合が大きくなっています。これを行政国家といいます。
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