このページではニュースなどでよく見聞きする「市場原理」についてわかりやすく説明します。
市場原理の基本はどこの国でも通用しますし、経済学部の学生でなくても知るべき知識です。
私は大学で経済学や法学を履修し、さらに卒業後は社会科学の本も商業出版した実績もあるため参考になるはず。
なお「市場原理」とよく似た言葉に「市場経済」がありますが、これはほぼ同じ意味だとお考えください。
市場経済とは対照的な計画経済についても解説します。
市場原理とは?【わかりやすく解説】
市場原理は暗記するというより常識的なレベルでの想像力がとても大切。
その典型が売り手と買い手の対照的な欲望です。
- 売り手は商品をなるべく高く売りたい
- 買い手は商品をなるべく安く買いたい
たとえば、あなたが商店の店主(=商品の売り手)だったとします。この場合、なるべく店の商品は高く売りたいですよね。その方があなたの売上・利益は高くなるからです。
売上・利益が大きくなればそれだけ生活が楽になって遊ぶお金も増えますから、どこの国でも人間がお金をもとめるのは当たり前のこと。
一方、あなたが商店の客(=商品の買い手)である場合、商品はなるべく安く買いたいはずです。その方があなたの持ち金は多く残るからです。
以上を想像・理解するのは難しくないかと思います。
経済学の理論は「人間はお金が好き(お金をもとめる)」を前提にしています。
これの例外にあてはまる人はかなり少ないでしょうし、そういう確たる前提がないと理論を展開できないからです。
市場は参加者数によって揺れ動く
次に理解していただきたいのが市場の動きです。ここでも想像力が大切。
たとえば、3人が船で遭難し無人島に漂着したとします。このとき外部との通信手段は何もありませんが、3人は現金をたくさんもっているとします。
その島へ商人Aが1人だけ現れてペットボトル飲料水を3人に売るとします。飲料水の値段はどうなると思いますか。
普通に考えると商人はかなりの高値で売りつけるはずです。具体的にはペットボトル1本1000円としましょう。
3人はお金をたくさんもっていますし、そこは無人島であり商人Aには他に競争相手がいないため高値で売りつけやすいのです。
無人島で飲料水は命をつなぎとめる大変貴重なものなので3人は我慢せず買ってくれるでしょう。
市場原理において売り手は競争し合うのが大原則。
「遭難時にお金をとるな」とか「蒸留装置を使って水を確保しろ」みたいな現実的な話は置いといてください。
重要なのはあくまで経済的な考え方です。
供給が増えると価格は下がる
ところが次の日、その島には商人Bがやって来て同じように3人に同じペットボトル飲料水を売り込んできました。
こうなると飲料水の価格は下がるのが普通です。Aは「1000円で売りたい」という欲望をもっており、当初は競争相手が他にいなかったため実際に1000円で売ることができました。
しかし、あとから現れたBは同じ飲料水を1100円で売ろうとしても、1000円で売っているAにはかないません。
前に述べたように「買い手はなるべく安く買いたい」という欲望をもっているため、1100円のペットボトル飲料水は買ってもらえないのです。
そこでBはAよりも多く売るために値段を下げるのです。
その後、Bが価格を下げたことに対抗してAはさらに価格を下げてくる場合もあるでしょう。
以上のような動きを経済学・市場原理では「供給が増えると価格は下がる」と表現します。
消費者にとっては価格が下がった方が買いやすいですからうれしいですよね。
たとえば、かつてテレビは高級品でしたが、メーカーの供給数が上がるとテレビの価格は下がり多くの家庭に普及しました。
市場原理は各人に不足していた物資を行き届かせる機能もあるのです(=市場経済の配分機能)。
逆のパターンを考えよう
次に逆のパターンを考えてみましょう。
すなわち、商人Aと漂流者3人のところに、さらに漂流者としてYとZが現れた場合です(買い手が2名増加)。
この場合、ペットボトル飲料水の価格は上がります。
商人Aと漂流者3人のときに飲料水は1000円で売れていましたが、漂流者が増えると漂流者Yは「1100円で買いたい」そして漂流者Zは「1200円」で買いたいというオークション感覚で上がるからです。
これを経済学では「需要が増えると価格は上がる」と表現します。
ここまでが理解できれば市場原理の基本中の基本が理解できたようなものです。
市場原理が作用しにくいパターン
しかし、市場原理がうまく働かない場合もあります。
たとえば、商人Aと商人Bが結託した場合です(AとBは競争しない)。
すなわち、あとから無人島に現れた商人Bは商人Aに「あんたが1000円で売っているならオレも1000円で売るからお互いに値下げしないようにしようぜ」とぐるになるのです。
現代の日本では本来であれば競争する企業同士が結託して競争を避けると、独占禁止法という法律に反します。
日本政府は自由な経済競争を導こうとしているのです。
買い手が情報不足だったり面倒だったりしたらどうなる
商人Aと商人Bが結託していないとしても、AとBが無人島でたがいに離れたところで漂流者に水を売り、漂流者は商人が2人いることを知らない場合、漂流者は高い方の飲料水を買ってしまうことがあるでしょう。
または漂流者が商人は2人いて価格は違うことを知っていたとしても、漂流者は安い方の商人のところまで出かけるのが面倒な場合、高い方の商人から買ってしまうこともあるでしょう。
つまり市場原理は、
- 売り手が結託する
- 買い手は情報不足
- 買い手にとって面倒
という場合、作用が停滞するわけです。
市場経済の関連用語を整理【市場原理の問題】
ここでこれまでに出てきた用語について一旦整理します。
- 市場(いちば)東京魚市場のように具体的な商品を実際に面と向かって取引する物理的な場所
- 市場(しじょう)多くの需要と供給にもとづいて成立する概念上の市場
たとえば、本の市場(いちば)といったら公園などで行われているフリーマーケットのように実際に本が売買されている場所を想像してください。
次に本の市場(しじょう)といったら、本に関する顕在的な需要・供給と潜在的な需要・供給を多く含んだ全体的な抽象概念を意味します。
このページで書かれている「市場」は(いちば)と直後に書かれていなければ、すべて「しじょう」の意味で使っています。
- 需要買いたいという欲求
- 供給モノを市場に出すこと
- 市場原理市場で商品に価格がついたり、各人が自由に行動(競争)すると商品の過不足が調整されること
- 市場原理主義市場原理にこだわる姿勢や自由放任的な経済思想のこと(後述します)
- 市場経済市場原理とほぼ同じ意味で「計画経済」と対照的な意味で使われる(計画経済は別の記事で解説)
- 市場価格市場原理にもとづいた自由な価格
- 自由主義経済各人の自由にもとづく経済体制のこと(市場経済と同じような意味)
- 自由経済学で自由とは政府に強制されていないという意味で使われやすい
市場原理の社会性
ここで重要なのは市場原理には社会性があるということです。
それは以下のとおり。
- みんなにあてはまる原理
- 市場原理によい悪いはない
- みんなでつくる体系
- 市場の参加者数は多い方が基本的には望ましい
- 発展性と修正力と排除力がある
- 選択肢が多い(市場価格・公定価格のところで後述)
まず1の「みんなにあてはまる原理」は、
- 売り手はなるべく高く売りたい
- 買い手はなるべく安く買いたい
という欲望はどんな人間にもあてはまるということ。
それは人としてよいとか悪いとかではなく「人間はお金が好き」という性質から導かれるだけです(市場原理によい悪いはない)。
3の「みんなでつくる体系」と4の「市場の参加者数は多い方が基本的には望ましい」は一緒に考えるべきこと。
たとえば無人島に商人が1人しかいなかったときは水の価格が高止まりしていましたが、商人が増えると価格が下がるように市場原理は多くの人間でもって構成されています。
また商人の立場からいうと、わざわざ無人島に出向いて売るなら客は1人ではなく数多くいた方が売上は大きくなります。
極端な話、ロビンソン・クルーソーのように無人島に人間が一人しかいなかったら他人とモノを取引できませんから、モノに価格をつける意味がありません。
外界と隔離された無人島やたった1人だけの島には市場原理が存在しないのです。
5の「発展性と修正力と排除力がある」はユニクロが参考になります。
ユニクロがファストファッションで日本中を席巻していることはご存知かと思います。今や海外進出も盛んです。
ユニクロはかつて他社がつくった服を仕入れ・販売するというメインにしていました。
しかし、いつしか製造も自社で担った方がより多くの利益を生むと考えたことから、徐々に自社でつくった自社ブランドの商品の比率を高めました。
ユニクロのように小売と製造を兼ねる企業は製造小売業といいます。ニトリなんかも製造小売業の部類に入ります。
アパレル小売は競争の激しい業界でしたが、ユニクロは競争に勝つために製造も担ったことで大躍進を遂げました。そこでは蹴落とした同業他社もたくさんありました。
つまり、市場での競争が激しいと業界は発展しますし、市場は同業他社を排除する力があるといえます。
このような競争はアパレルに限らず世界中のさまざまな業種で行われています。
市場原理主義の前提と問題
次は市場原理主義について。
市場原理主義とは、経済の多くを市場原理にばかり任せて政府は介入しないことを意味します。
たとえば、あなたは図書館を利用したことがあると思いますが、図書館の運営は利益が出にくい事業です。
ここでは「利益が出にくい事業=民間企業が参入しにくい分野」と考えてください。民間企業は利益が出る市場でないと参入しにくいのです。
でも、図書館を利用したいと思う人は世の中にたくさんいますよね。
そのため、利益が出にくいものの人々にとって必要な分野については政府・自治体が税金を使って運営するというパターンが多いです。
この種の分野としては、警察、消防、一般道、公園などが挙げられます。
もし日本政府が図書館について市場原理主義をとったとしたら、街から図書館(利益にならない施設)はなくなってしまうのです。
これが市場原理主義の問題。
政府は無駄遣いをしやすい
しかしながら、政府・自治体は税金によって運営されているがゆえに無駄遣いをしてしまいがち。
たとえば東京五輪の予算は当初3000億円とか言っていましたが、2020年には3兆円規模にまで膨らんでしまいました。
一方、民間企業は営利を第一に考えるため、無駄を排除しやすいという特徴があります。
つまり、政府にも民間企業にも長所と短所があるのです。
そのため、たとえば図書館事業においては建設段階や事業が一段落するまでは公営に任せて、そのあとは民間企業に運営を任せるというパターンが結構あります。
市場原理のメリットとデメリットは賃金にも影響する
市場原理は人々の賃金(給料)にも影響をおよぼします。
たとえば、1990年には時給1500円で担うのが適切な仕事があったとします。
しかし、90年代から現代にかけてはインターネットが普及しました。そのため賃金の需要も様変わりしました。
現代で需要が高い職業、すなわち企業が高い賃金を労働者に提示しやすい職業は人工知能のエンジニアが代表格です。おそらくまだ需要は上がります。
そういったIT系のエンジニアの需要が上がった一方で、需要が下がった業種・職種もあります。
経営者の立場と市場原理からすると、需要の低い職種や高度なスキルを必要としない職種には高い賃金を出したがりません。
このように市場原理のもとでは経済的強者が需要の低い人や物を安く買い叩く現象が起きやすいです。いわゆる「下請けいじめ」がそうです。
そのため政府は賃金に関しては最低賃金制度を設けています。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
たとえば、市場原理としては時給600円の価値しかない労働でも最低賃金が800円であれば使用者は時給800円以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。
つまり、最低賃金制度は市場原理に対抗した制度なのです。
まとめ:市場原理主義の意味と問いかけ
市場原理というのは客観的な経済法則であり、みんなに共通しています。それは物理学でいう万有引力みたいなもの。
しかし、政府は市場にどの程度介入すべきかなんていうのは法則ではなく、各人の判断がわかれます。
あなたも経済について成熟した判断ができるようになってください。
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