このページでは業種ごとの日本企業の大まかな特徴について述べていきます。
あくまで投資家目線で見た大まかな特徴ですので細かいところは個別企業によって異なります。
なお大前提として、同じ業種であっても新興市場(マザーズやジャスダック)の銘柄の方が株価は激しく動く一方で、東証1部の大企業は穏やかに動く傾向があることをご了承ください。
参考:日本株におけるPERと各業種
- PERは低いが配当はまあまあの業種金融、不動産、卸売、電気、ガス、鉱業、建設
- PERが低く景気循環に左右されやすい業種鉱業、素材(鉄、ガラス、ゴム、紙、繊維)、海運
- PERが普通(成長期待が中くらいの業種)小売、食品、製造、陸運、空運、人材
- PERが高い(成長期待が高いが、株価が下がったときも大きい)IT、ゲーム、製薬
以上は日本株におけるPERです。
日本では低成長の業種が海外では高成長ということもあります。
参考:日本株における業績予想と計画の傾向
- 弱気の業績予想と経営計画を出しやすい業種大企業、製造、建設、素材、インフラ(いわゆるお硬い企業や業種に多い)
- 強気の業績予想と経営計画を出しやすい業種新興企業、IT、ゲーム(イケイケの企業や業種に多い)
たとえば大手の自動車メーカーは為替レートによって業績が大きく動きますが、為替レートは刻々と動くため正確な予想は不可能です。
そのため自動車メーカーとしては想定する為替レートを控えめにしたうえで業績予想を出します。これだと決算がやや悪いとしても、事前の業績予想が控えめなので期待ハズレになりにくいわけ。
強気の業績予想を出しておいて失望されるほうが痛いのです。
逆に新興のIT企業は「社長=創業者=大株主」である確率が高く、社長は自分の資産である自社株の価値を大きく上げたいと考えがち。
したがって、新興企業の社長は株価を上げる策に熱心ですが、強気な予想や計画を出しているのにそれに見合った決算を出せないと失望売りが大きくなります。
業種の特徴と銘柄
まずは建設業について。
建設業の株価の動きは基本的にはかなり穏やかであり、配当利回りはやや高い銘柄も多く見られます。
大きな天災や工事の受注、そして談合などが起きると株価は大きめに動きます。
ただし建設業とは一口にいっても、建設分野は高層ビル、一戸建て、マンション、海洋土木、鉄道、橋梁、電気・通信工事、官需、海外での工事などがあり、各社の強みはわかれています。
そこで今後は、たとえば5G(第5世代移動通信システム)が伸びると判断したら通信工事会社を選ぶというのも一つの手です。
小売業の特徴
小売業で上場している企業は身のまわりにたくさんあるチェーン店の運営元・親会社です。
外食産業も小売業の一種。それゆえ消費者・個人投資家にとって業務内容や雰囲気が観察しやすいです。
またビジネスモデルもわかりやすく単純です。
小売業の中でもコンビニは資本関係に注意です。たとえば最大手のセブンイレブンを株式投資として買う場合、セブン&アイを買うことになります。
セブン&アイは総合小売業であり、株価は苦戦しているイトーヨーカドーやそごう・西武も含めたもの。
一般に小売業の銘柄は日本国内の内需銘柄だと見られがちですが、中には海外へと積極的に展開している企業もあります。
とくに日本のラーメンやカレーを諸外国に売り込んでいる外食会社の今後が注目されます。
個人的には何でも屋タイプの小売業よりも、100円ショップのセリアが若い女性に焦点を合わせて業績を伸ばしたように、明らかな特徴がある小売業が狙い目だと思います。
最近ではネット通販の伸びによってリアル店舗の経営が圧迫されている点には注意が必要です。
小売業の中でも百貨店と飲食店は厳しい、コンビニは微妙、スーパーマーケットと自動車パーツ店とアウトドア用品店はやや好調というように明暗は分かれています。
総合商社の特徴
卸売り業の花形で就活でも人気のある大手総合商社の業績は近年ではよかったのですが2020年は急落しました。
総合商社はいろんなビジネスをやっていますが、最も大きいのは天然資源の売買に関するビジネスです。
しかし、資源ビジネスは市況の影響を受けやすいという欠点があります。これは商社が努力しても資源価格は市況に左右されてしまうということです。
実際、業績やテクニカルは悪くないのに資源価格が下落しているために(=将来の収益が下がりそう)、商社の株価が下がることは珍しくありません。
総合商社は業績だけでなく配当利回りもやや高いのですが、欠点が意識されて株価は割安水準にとどまりやすいです。
金融業の特徴
金融業の株価の動きは基本的に穏やかで配当利回りは高い部類にあります。
昨今の大手金融機関はAIやネットを活用して人員と支店・ATMを大幅に削減しつつあります。
また金融技術の進化によって資金決済は伝統的な銀行以外も担うようになっています。
世界的にはゴールドマンサックスのような投資銀行は持ちこたえるか、富裕層向けのサービスによって成長する余地はあるでしょう。
新興のフィンテック系企業もそれなりに期待できると思います。
しかし、日本の上場企業に多い伝統的な商業銀行(とくに地銀)や店頭証券は厳しいものがあります。
実際、地銀に関してはよいニュースをあまり聞きませんし、地銀の信用売り残は多いです。
それでも地銀の株価が一気に大崩れしないのは配当利回りがそれなりによいからでしょう。
不動産業の特徴
不動産業は地価とREIT(不動産投資信託)と金融政策が投資指標になる業種です。
株価の動きは普段は穏やかなのですが、地価公示や金融政策の変動時、そして決算前後は大きめに株価が動きます。
そもそも不動産業は金融(お金の貸し借りや金利)と一体の業種。つまり、不動産業は市場に出回るマネーの量や金利に業績が左右されやすいのです。
それはサラリーマンが家を買うときにはローンを組む場合が普通であることからも明らかです。
ただし、日本国内の不動産のみを扱っている会社の場合、日本は少子高齢化時代に入っており、東京オリンピック以降では不動産の需要が減ると予測されている点には要注意です。
鉄道・電力・ガスなどのインフラ産業の特徴
インフラの利用者は不況下でも一定数いるもの。そのためインフラ関連株は不況に強いといわれています。
ただし、それらの利用者は将来爆発的に増えることはなさそうなので株価の動きは穏やかです。
なおインフラの中でも大手私鉄は昔から沿線にプロ野球団や大学を誘致したり、沿線の不動産開発や駅前の小売業に熱心であるなど沿線開発の総合会社でした。
しかし、近年ではJRも沿線開発やエキナカに力を入れています。
そのため上場している鉄道会社は鉄道事業単体としてのインフラではなく沿線全体を見るべきです。
鉄鋼・紙・ゴム・繊維などの素材産業の特徴
一般に素材産業は景気循環株といって、そのときの市況によって業績が大きく変わることが知られています。
したがって、PERは基本的に低く株価の動きは中長期的に見るとやや大きいです。
市況の波動を見極めて株価の波に上手く(やや早めに)乗ることができれば、大きな利益が見込めるでしょう。
この波動は日本国内だけでなく海外事情とも合わせて決まるものなので、波動の見極め方が難しいです。
製造業の特徴
次は製造業、とくに機械製造業について。
機械製造業は自動車と同じく輸出と絡んでいる場合が多いため、業績が外需と為替に左右されやすいです。
なお筆者による2021年2月現在での日本の製造業に対する見方は以下のとおりです。
それは業種ごとの大まかな傾向なので、不調な業種の中にも少しは好調な企業もあるかもしれません。
- 家電中韓台に押されがち
- スマホとタブレットとPC米国と中韓台に押されがち
- 建機中国や新興国の需要に左右される
- 造船中韓に押されてかなり厳しい
- 鉄道車両日立や川重の行方に注目だが、世界的な大型再編に日本メーカーは絡んでいないなど厳しいか
- 航空機航空需要が全体的に減っているのが気がかり。
- バイク割と好調
- 精密機器割と好調
- 医療機器好調だが株価はそれを織り込んでいるせいかPERは高め
- 工場機械(工作機械、ロボット、オートメーション化)割と好調、需要のピークはいつなのか
- 環境設備(空調、水処理、プラント)割と好調
- 複写機世界的にペーパーレス化が進行しているので厳しい
- ゲーム(ハード)大手が好調
という形です。
自動車メーカー本体の特徴
下請け各社からパーツを集めて組み立てるのが自動車メーカーです。
基本的に日本の自動車メーカーは配当がよいのですが、PERは低く株価は今一つです。
自動車メーカーの株価が低い水準になりやすい理由としては、
- 業績は為替に大きく左右されること
- リーマンショック時には業界大手でさえも大きく停滞したこと
- 貿易戦争のターゲットにされやすいこと
- 次世代自動車の未来がまだ不明確(電気、ハイブリッド、燃料電池、どれが主役?、それとも自動車の個人所有は減ってシェアリング重視?)
- 環境規制によって先進国では台数が減りそうなこと
などがあげられます。
日本の自動車メーカーは生産や販売の中心について北米か欧州か東アジアかその他新興国かという選択肢があります。
また、そのいずれにも偏らずバランスをとっている企業もあります。
そのため、たとえば北米市場が好調だと見込むなら北米に注力し北米で人気がある自動車メーカーを選ぶべきです。
製薬産業の特徴
次に製薬産業についてです。
製薬産業は海外売上高比率が高く外需産業としての面もあります。
不況でも薬剤に対する需要は確実にあるため不況に強いといわれています。
新薬、海外進出、不祥事などに関してニュースが発生したときには株価が大きく動きます。とくに新興の製薬会社の株価の動きは激しいです。
製薬産業は研究費がかかりますが、できあがった新薬は特許として一定期間保護され独占販売できます。
しかし、一定期間が経過すると権利が切れて、他企業も同じ成分の薬を製造・販売できるようになります。このあたりをどうとらえるかが投資家の腕の見せ所です。
食品産業の特徴
人間はだれしも食べないと生きていけないので食品産業は不況下でも一定の需要があります。
逆に日本国内が好景気だとしても食品産業の需要は爆発的に増えるわけでもないので、日本国内だけで活動しているのなら業績は大きく伸びにくいでしょう。
したがって、株価の動きは基本的に激しくありません。
しかし、近年では海外進出や海外企業との提携・合併に力を入れる企業がありますので、その展開・結果次第では大きく業績を伸ばせる企業もあるでしょう。
また食品会社は株主優待として自社商品を配る傾向がありますので、それを楽しみにするのもよいかもしれません。
IT産業の特徴
一口にIT産業といっても実態は多様です。それゆえ株価の動き方もさまざまです。
しかし、IT産業は他の産業と組み合わせると大きな可能性が見出せるという点は共通しています。
たとえば、自動車の自動運転技術、フィンテック(金融とITの融合)、労働の省力化といった具合です。
このあたりを上手く開拓できる企業の株価は大きく伸びると思います。
筆者が最近注目しているITは酒造や農業に関するものです。
というのも、これまでうまい酒や農産物の作り方は職人の勘に頼る部分がかなりありました。
しかし最先端の現場では、理想的な温度・湿度・炭素・日射量・配合量などを割り出し、それをITによって管理して再現性を高めているのです。
これが上手くいけば美味しい食品が安く安定的に手に入りますし、人員を省力化できるため後継者不足の問題も少しは改善できるでしょう。
ゲーム産業(ソフト・ソシャゲ)
ゲーム産業、とくに新興市場のソシャゲ銘柄の株価は激しく動くことで有名です。
数年前にはガンホーやミクシィが大躍進を遂げました。
もともとゲームは生活必需品ではないうえに流行り廃りが大きいという特徴があります。
通称「セルラン」と呼ばれる日々のセールスランキングによっても株価は動きます。
筆者はゲーセク(ゲームセクター)に投資する場合もありますが、このときは株価の動きの激しさを警戒して比較的短期になる場合が多いです。