共産主義(社会主義)とは資本主義が生み出す問題について根本的で理屈っぽい変革をめざす思想・体制のこと。
計画経済とは、政府が物資の製造品目・製造数量・製造担当者をすべて仕切り、それを国民に平等に配給していく体制のこと。
計画経済は共産主義(社会主義)体制の国でよく行われます。
今回は社会主義や計画経済の基本、そしてなぜ共産主義(社会主義)が独裁になりやすいかをわかりやすく解説します。
私は社会科学の分野で商業出版本を出した実績があり、そこでは計画経済についても解説しています。
計画経済とは?【なぜ社会主義は独裁になるか】
- 資本主義財産や職業など経済活動全般について自由を基調とする経済体制。自由競争だから失業、環境破壊、格差といった問題が生じやすく、諸問題について小幅な改善をめざしやすい。
- 社会主義資本主義が生み出す問題を根本的に克服しようとする思想や体制。その具体的な政策として計画経済、私有財産の廃止、原始共産制、労働者自主管理などがある。かなり急進的な傾向。
社会主義を理解するうえで最も重要なのは、社会主義者は資本主義を猛烈に嫌っているということ。
社会主義は資本主義の問題を根本的に克服するために生まれてきたのです。
資本主義の問題は自由競争から生まれる
資本主義国で最も典型的な問題は経済格差です。
経済格差は、日本と海外、日本の中における東京と地方、若年層と高齢者、儲かる業種と儲からない業種などいろいろありますが、経済格差は資本主義体制ではゼロになることはありません。
なぜなら資本主義国で人々は自由に経済活動しますし、稼ぐ能力や時の運は人によって違うからです。
社会主義者ではない人の政策は穏健
資本主義で競争に負けた業者は廃業や解雇など痛苦な状態に至ります。
廃業や解雇などに至らなくても、苦しい就労状態になっている労働者は結構います。
これに関して社会主義者ではない人・政権なら、そういった苦境は税金による福祉や所得再分配などで緩やかに救おうとします。
これは現代のさまざまな先進国でとられている基本的な政治経済体制です。
社会主義者の政策は超大型で急進的
でも、社会主義者なら経済格差についてもっと根本的で理屈っぽい変革をめざします。
具体的には政府が国民をすべて公務員として雇い、政府が国民の働くところや生産品目・生産数を決め、その給料は平等に支給すれば理論上は経済格差はなくなります。これを計画経済といいます。
日本のコンビニエンスストアを見ると毎日、売れ残り食品の廃棄量がかなりありますが、それを計画経済に移行させ、そこでの政府の資源配分が完璧ならそういった廃棄量もゼロにできます。
社会主義者は社会を徹底的に理屈っぽく設計すれば、みんなが幸せになれるうえに、地球環境にもいいと考えるのです。
共産主義や社会主義にはいくつも類型があるのですが、どれも理屈っぽく理想をめざしていく点は共通しています。
計画経済の特徴
社会主義および計画経済は一時的にうまくいくことはあります。実際、ソ連でも経済成長が安定して推移していた時代はありました。
やはり計画経済では政府が成長産業や基幹産業に集中的かつ強制的に資源(ヒト・モノ・カネ)を配置できるからでしょう。ソ連は原油や天然ガスの産出にめぐまれていたのも幸運でした。
しかし、ある程度長い目で見ると計画経済は失敗しやすいといえます。
そこで注目すべきは、計画経済の特徴です。
- 社会主義国では生産物の不足が大規模に起きやすい(逆に資本主義国では生産物の余剰が起きやすい)
- 社会主義国の企業は政府の顔色をうかがうばかりで、消費者や労働者の満足度を上げようとする姿勢が弱かった(モノ不足が強いので消費者はモノを手に入れるだけで精一杯だった)
- 労働のインセンティブが弱く技術革新が生まれなかった
- 資本主義国の価格は市場価格であり大きな伸縮性と適応性があるが、社会主義国の価格は公定価格であり柔軟性がなかった
- 資本主義国の企業はとにかく試行錯誤するが、社会主義国の企業は政府の統制下にあるばかりで試行錯誤が乏しい
- 資本主義は帰納的、社会主義は演繹的
計画経済は政府の計画と指令のもとに動く以上、かなり非効率なのです。
社会主義はなぜ独裁に至る?
計画経済はすごく非効率にもかかわらず、社会主義国の政策目標は「失業者ゼロ、格差ゼロ、資本主義体制よりも魅力的な社会にする」のように壮大です。
そうなると当然、政府や政策の規模もかなり大きくなります。
- 資本主義でも社会主義でも政府は自分たちの誤りを認めたがらない社会主義政権の政策は大規模だから、誤りを認めたがらないときの規模も大きい
- 資本主義国のほうが恵まれていることがバレると社会主義政権にとって不都合だから、ウソ情報を流したり資本主義国の情報が入ってこないようにしたがる
- 社会主義にとって大事なのはマルクスのような社会主義思想だから、それとは相容れない宗教や思想を弾圧しやすい
- 社会主義は理想が高すぎるから、その理想とはズレている人を粛清しやすい
- 「社会主義政権は正義であり、正義にもとづく行為は何でも許される」と考えるから(いわゆる愛国無罪と同じ考え方)
- 資本主義下でもコネ採用やコネ補助金はあるが、社会主義下でのコネ採用やコネ補助金はそれを遥かに超える規模になりやすい(政府や政策の規模が大きすぎるから)
- 社会主義政権は旧体制の産物を嫌って、それとは断絶的な新体制をつくりたがるから(ポルポト政権のように大きなリセットは大きな歪みを生みやすい)
- 有能な国民は国を出ていきたがるが、それを恐怖統制で食い止めたがるから
- 社会主義国の国民には選挙の自由がないから政治家を落選させることができない
- 表現、報道、集会について自由を強く制限するほうが政府は計画経済を展開しやすい
- 社会主義政権は宇宙開発やスポーツのドーピングなどを通じて社会主義の威信をひけらかしたがる
計画経済についてよく考えてみると、政府が国民の働くところや生産数・生産品目を統制するってものすごく大変ですよね。
人によって向き不向きはありますし、大変な業務もあれば楽な業務もあります。
それなのに給料が平等だとすれば、大変な業務ばかりしている国民は不満をもつに決まっています。
しかしというか当然というべきか、計画経済の政府は自分たちの間違いを認めたがりませんし、国民の統制という超巨大利権を手放したがりません。
そこで政府は国民を強く抑圧するわけです。
日本やアメリカのような自由経済の国だと選挙もまた自由ですから、妙な政治家は選挙によって落選させることもできますが、現実の社会主義国に選挙の自由はほとんどありません。
社会主義政権の目標は大きいです。そのため目標達成が難しいうえに、失敗時の規模も大きくて、失敗からの回復も大変。
たまに「社会主義を試して」という声を耳にしますが、失敗したときの回復がすごく大変であるため、そう簡単に選択できないのです。
社会主義国の国威発揚
北朝鮮が国全体としては貧乏なのに核ミサイルをつくる資金があるのは、自国の資源や他国からの援助を強権的に軍事ばかりにまわしているから。
計画経済の国の政府はよくも悪くも特定の事業を集中的に育てることができるのです。
かつてのソ連も宇宙開発を通じてアメリカに勝つことにかなりこだわっていました。
計画経済の大問題
そもそも計画経済は、政府が経済について情報収集と生産命令と人員配置と配給を行うものです。
一国全体の経済に関する情報量は膨大すぎますし刻々と変わりますから、頭のいいエリート役人といえども情報を的確に処理しきれません。
仮に最新のスーパーコンピュータを使うなどして経済情報を処理できたとしても、一体どうやって平等に配るのでしょうか。
政府がみんなに一律で1ヶ月あたり30万円を配るとしたら、それ以上お金を稼ぐ能力のある人は不満をもつに決まっています。
これでは有能な人ほど海外に出て行きたがるに決まっていますし、優れた商品が生まれにくくなります。
現代ではたとえばキューバという社会主義国には有能な野球選手がたくさんいるものの、キューバ国内の年俸は低いためアメリカや日本に流れているのが実情です。
市場経済は人間の誤りに対応できる
計画経済の国でも市場経済の国でも政府(役人)というのは自分の間違いを認めたがりません。
計画経済はそんな政府が経済の全容を一方的に決める体系であり、政府は誤りを認めたがりませんから崩壊するのです。
一方、資本主義国の政府の権力は計画経済の国の政府の権力よりはまだ小さいです。
資本主義国で民間企業は、政府から少々の規制を受けつつも営利をもとめて自由に活動します。
資本主義国の民間企業は自社商品の価格が高すぎて売れないと判断したら安くします。もし民間企業は自社商品が売れなかったら倒産してしまうからです。
資本主義国で優れた商品が生まれるのも「売れないと倒産する、失業する」という危機感が原因の一つとしてあります。
つまり、資本主義国の民間企業や労働者は誤り(価格を高くしすぎた、就職先を間違えたなど)を自主的に修正できるのです。
そのため経済は市場原理ある程度任せた方がいいといえます。
産業の流動性
- 昔の日本では栄えていたが今は廃れた産業石炭、繊維、本屋、新聞
この社会では地域や時代によって栄える産業と廃れる産業とがあります。
廃れる産業で働く人は待遇が悪くなったり倒産・解雇になりやすいです。
しかし、社会主義的な経済体制だと、そういう不遇な産業もかなり温存しやすいため、産業の新陳代謝では資本主義国に負けやすいです。
なぜ社会主義者は社会主義を信じる?
- 厳しくて理論通りに行かない現実よりも、マルクス殿が言う甘っちょろい戯れ言や『資本論』『共産党宣言』の方が好きでござる
- 社会主義者は強烈な平和主義者でもあり、戦争は資本主義国の金持ちが起こすと信じており、社会主義に移行すれば戦争はなくなると考えているから(実際には戦争が起きると軍需企業以外の株価は下がるから金持ちも戦争を嫌う)(各国の社会主義政権は1億人以上もの国民を虐殺したり飢餓に追い込んできた平和主義とは真逆の路線…)
- 大東亜戦争では「お国のため、天皇のため」という皇国史観的なフレーズが国民動員のために多用され、社会主義者はそういう右翼的な歴史観(皇国史観)を嫌うから
- カリスマ的な政治家の資質や理性を強く信頼している(現代の日本では○本○郎とか…)
- たとえば消費税を減らしたり廃止すると、そのほかの税や社会保険料は上がるが、社会主義者は消費税廃止でもってすべて解決するかのように信じている(急進的な大型政策で一気に解決しようとするのが社会主義…)
- 資本主義のようにギスギス競争するより、理論上の社会主義のようにのほほんと暮らすほうが魅力的
- 資本主義国の政府は競争を放任しがちだが、社会主義政権はいろんな方面へ強く介入してくれるから、それが魅力的
- 天然資源の枯渇が迫っているとすれば、社会主義のごとく経済活動をもっと強く抑制する必要がある
- 人間はみな平等という意識が強い(真の平等を実現するなら資本主義では無理と考えている)
- 社会主義国がなぜ失敗したか理解していない
- もう宗教のように社会主義を信じ切っているから、外野がいくら社会主義の批判をしても洗脳が解けない
- 社会主義は資本主義が成熟した国でこそ成功すると信じている(ソ連や北朝鮮は資本主義が成熟した国ではなかったから失敗した?)
- 現実に起きた社会主義独裁から目をそらして究極の共産主義を信じている
普通の人はこれまでの解説・社会主義大失敗の歴史を見ると「現実には社会主義っていろいろ無理があるんだな」と思うはず。
しかし、社会主義者というのは「それでも私が考えた社会主義、〇〇党の党首が考えた社会主義なら大丈夫」と考えます。
「社会主義は神を信じない宗教」ともいわれるように、強烈に理性を信じ込むところがあります。
だれもが自由かつ平等で格差がないという理想像は人類にとって魅力的なのでしょう。
究極の共産主義は無政府体制
社会主義・共産主義といえば独裁政権の歴史が想起されやすいものです。
しかし、究極の共産主義は人々の自発的な助け合いだけで社会が成り立つなど、もはや国家や政府という枠組みが必要ない自由な社会。
これも理論上の産物・絵空事であって現実に可能とは思えません。
社会主義に説得力がなくなった理由
本来、資本主義の意味は資本家という生産手段をもつ人が、労働者を使って自由に金儲けする体制でした。
ここでは資本家と労働者は対立する構造です。
しかし、現代では中小零細企業の資本家よりも大企業の正規労働者のほうが裕福だったりするように、資本家や労働者の意味・位置づけが昔とはズレてきています。
日本の大企業の幹部は社長も含めてサラリーマンが多いです。
労働者には貧しい人もいれば裕福な人もいるように彼らが革命へ向けて一致団結するのはかなり難しいですから、現代では労働者が団結して起こす社会主義革命は起きにくいと考えられるわけ。
日本の左派政党も、立憲、共産、れいわ、社民など複数に分かれているのはそれだけ支持基盤・思想・理想・歴史・政策が違うからです。
社会主義革命を民主的に起こすには極左政党が過半数の票をとる必要がありますが、中道左派政党による過半数はありえるとしても極左が単独で過半数をとることはありえないでしょう。
ソ連、中国、キューバ、ラオス、カンボジア、ベトナム、ルーマニア、東ドイツ、北朝鮮など社会主義系の国はすべて大失敗したのもマイナス印象でしかありません。
昔の冷戦時代だと海外移住は難しかったのですが、最近では海外移住がしやすくなったので、金持ちに厳しい政策ばかりする国からは人々が逃げてしまいます。
修正資本主義:資本主義における社会主義的要素
各国の資本主義体制では社会保障はそれなりに充実した形で用意されています。
これは、労働者からの要求や、労働者を大事にしないと革命が起きてしまうという危機感から拡充されていったものです。
その意味では社会主義は完全に敗北したわけではなく、資本主義の中に部分的に取り込まれたともいえます。
これを修正資本主義といいます。
計画経済のメリットとデメリット【問題点は大きい】
次に計画経済のメリットについて解説します。
この場合のメリットとは、政府による経済運営がうまくいくという前提をもとにしたメリットです。
現実にはうまく行かないことだらけなのはこれまで申し上げたとおり。
- 失業がない
- 格差がない
- 社会保障は手厚い
- 特定の事業に国力を集中させることができる
- 不況が発生しにくくなる※
- 市場経済の国の不況の影響を受けにくくなる※
資本主義・市場経済の国では周期的に好況と不況が訪れます。これを「景気循環」といいます。新卒就活生の採用倍率が年度によって違うのも企業の景気循環が反映されたもの。
で、たとえばアメリカの不況は日本にとっても悪い影響がかなりあるように市場経済の国の景況は海外にも連鎖しやすいという特徴があります。
しかし、計画経済の国は他国に対して閉鎖的な体制をとりやすいので、市場経済の国の景況が影響しにくくなる場合があるのです。
また政府が経済(景気)をコントロールできれば、理論上は不況が発生しないことになります。
戦前の世界恐慌ではソ連は大きな被害を受けなかったことが有名。
計画経済のデメリット
次は計画経済のデメリットについて。これは現実的に起きたデメリットです。
- 政治が独裁化しやすい(誤りが正されにくい)
- 文化や報道の多様性が抑圧される
- 反体制的な人は強制労働か死刑に処される
- 優れた商品が生まれにくい
- 国全体が貧しくなりやすい
- 食料やインフラが不足しているため人々の寿命は短い
- 国全体が貧しいと外国から魅力的な商品を買うだけの購買力もなくなる
- 優秀な人が海外に流出してしまう
- ウソまみれの政治になりやすい
計画経済の国というのは「建前」としては格差や失業がありません。
そうなると現実には失業者がいたり政府と国民の間に大きな格差があるとしても、計画経済の政府は国民や諸外国に対して「うちは格差や失業がない素晴らしい国」と平気でウソをつきます。
計画経済の国では失業者や就労不能者が存在していないことにされるのです。
市場経済の国(資本主義) | 計画経済の国(社会主義・共産主義) | |
経済の大原則 | 各人が自由に活動する | 政府が経済を全面的に仕切る |
財産の大原則 | 私有財産制 | 社会的所有(国有) |
政治の大原則 | 民主主義(選挙の多数党が権力を握る) | 一党独裁 |
景気循環 | 政府が頑張っても発生する | 相対的に発生しにくくなる |
職業選択 | 各人の自由 | 政府が人々を強制的に配置する |
会社に対する政府の指導方針 | 民業を圧迫せず民業を助ける | 従業員は公務員であり、すべて政府の指導下 |
価格の原則 | 市場価格 | 公定価格(政府が一方的に決めた価格) |
それぞれの会社の基本方針 | 営利の自由な追求(つぶれたら自己責任) | 政府の指導の下に動く |
表現・言論・信教の自由 | 違法レベルでない限り自由 | 政府の規制はかなり強い |
実施している国 | アメリカや日本など世界のほとんどの国 | かつてのソ連 |
※市場経済の国では一部に計画経済の原理を、そして計画経済の国では一部に市場経済の原理を取り入れているのが普通です。
たとえば日本は市場経済の国ですが、戦時中や終戦からの復興期は計画経済っぽい政策が行われていました。
現代の日本でも、たとえば民間企業が騒音や廃棄物を垂れ流していたら低コストで金儲けができますが、それは迷惑なので政府は一定の制限を課しています。
まとめ
計画経済は理論上は素晴らしい体制です。
しかし、現実には社会主義・共産主義の国家で独裁政権に殺された人数は計1億人以上ともいわれているように計画経済は恐ろしい体制。
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