このページでは計画経済の意味とメリット・デメリットについてわかりやすく(簡単に)解説します。
私は社会科学の分野で商業出版本を出した実績があり、そこでは計画経済についても解説しています。
市場経済と計画経済の対立は、いわゆる資本主義と社会主義の対立と似たようなものでもあります。
それでは参りましょう。
計画経済とは?【わかりやすく説明】
計画経済とは、政府が物資の製造品目・製造数量・製造担当者をすべて仕切り、それを国民に平等に配給していく体制のこと。
この「計画経済」は「市場経済」という言葉が対義語です。
日本は市場経済を基本とした国であり市場経済は身近なところにたくさんありますから、先に市場経済の意味を知って違いを理解する方が手っ取り早いです。
市場経済の基本
たとえば、あなたが日本国内にあるスーパーマーケットにトマトを買いに行き、そこではトマト1袋が300円で売っていたとします。
普通、この300円という価格は次の条件を満たしています。
- そのスーパーマーケットにとって一定の利益がある価格
- 人件費や光熱費といったコストがかかることを踏まえた価格
- 数日以内に売れることを目安にした価格(売れないと腐って廃棄処分になる)
- 周辺の競合店の価格を意識した価格(競合店よりも高すぎると売れない)
日本のスーパーマーケットは私的な営利事業なので、利益やコスト、そして競合店を意識するわけです。

市場価格は需要と供給のバランスにもとづく
市場経済に関して重要なのが、価格は需要と供給のバランスに左右されるということ。
- 需要
買いたいという欲求
- 供給
モノを市場に出すこと
たとえば、トマトの生産地に自然災害が直撃するとトマトの供給量は大きく減ってしまいます。
この場合、トマトの需要が下がらなければスーパーマーケットのトマト価格は上がるのが普通です。
このように人々の需要と供給に応じて変わる自由な価格を市場価格といいます。

市場経済は格差を生む
2021年の日本経済ではPS5やニンテンドースイッチといった最新ゲーム機に人気がある一方で(=需要が大きい)、ホテルや外食店の人気が下がっています(=需要が小さい)。
そうなると人気の商品を生産できている企業はたくさん儲かり、不人気の商品を売っている企業は儲かりにくいわけです。
つまり、市場経済の国ではみんなが自由に経済活動を行いますから、そこでは格差が必然的に生まれてしまうのです。

計画経済が完璧なら格差は消える
そういった格差を前にして現れがちなのが計画経済を主張する革命家。革命家は「人間はみんな平等」という想いを強く抱いています。
そのため革命家は「政府が物資の製造品目・製造数量・製造担当者をすべて仕切り、それを国民に平等に配給すれば格差はできない」と主張します。これが計画経済。
確かに政府が万能で、経済活動をきちんと仕切って国民に配れば格差は生じません。政府が国民を物資の生産役として平等に雇用・配置すれば失業もなくなります。
政府が過不足なく物資を配給すれば、スーパーマーケットでは売れ残りの商品は発生せず資源を節約することができます。
- 市場経済
政府が経済に介入する度合いは小さく、みんなが自由に活動する体制(格差ができやすい)
- 計画経済
政府が経済について全面的に仕切る体制(政府が万能であれば格差はできない)
ちなみに社会主義や共産主義とは資本主義や市場経済に対して根本的に反対して解決しようとする思想のこと。
計画経済は社会主義や共産主義の実現方法の一つと考えてください。
社会主義や共産主義は、計画経済、原始共産制、労働者自主管理などいくつか実現方法があります。
計画経済の大問題
ここでほとんどの人は気づくはずです、「計画経済なんて不可能」だと。実際、計画経済なんてのは理論上の産物なんです。
かつて計画経済をとっていたソ連という国は崩壊してしまいました。
現代では北朝鮮が計画経済に近い感じですが、崩壊するのは時間の問題でしょう。
そもそも計画経済は、政府が経済について情報収集と生産命令と人員配置と配給を行うものです。
一国全体の経済に関する情報量は膨大すぎますし刻々と変わりますから、頭のいいエリート役人といえども情報を的確に処理しきれません。
仮に最新のスーパーコンピュータを使うなどして経済情報を処理できたとしても、一体どうやって平等に配るのでしょうか。
政府がみんなに一律で1ヶ月あたり30万円を配るとしたら、それ以上お金を稼ぐ能力のある人は不満をもつに決まっています。もし生産量の多寡によって配るお金を変えたら、市場経済になってしまいますからね。
これでは有能な人ほど海外(市場経済の国)に出て行きたがるに決まっていますし、優れた商品が生まれにくくなります。
現代ではたとえばキューバという社会主義国には有能な野球選手がたくさんいるものの、キューバ国内の年俸は低いためアメリカや日本に流れているのが実情です。


計画経済の国は政治が独裁的になりやすい
そもそも計画経済の意味は、政府が物資の製造品目・製造数量・製造担当者をすべて仕切り、それを国民に平等に配給していくこと。
これは少し冷静に考えるとかなり独裁的な姿勢だとわかるはずです。
実際、計画経済をとっている(とっていた)国は例外なく政治が独裁化しました。
計画経済をとっている国の政府は「政府の言うことが絶対だし、政府がすべての利権を握る。国民はおとなしく政府のいうことを聞け。政府に反抗するやつはすべて粛清じゃ」みたいな考えに陥りやすいのです。
北朝鮮が国全体としては貧乏なのに核ミサイルをつくる資金があるのは、自国の資源や他国からの援助を強権的に軍事ばかりにまわしているから。
計画経済の国の政府はよくも悪くも特定の事業を集中的に育てることができるのです。



市場経済は人間の誤りに対応できる
計画経済の国でも市場経済の国でも政府(役人)というのは自分の間違いを認めたがりません。
計画経済はそんな政府が経済の全容を一方的に決める体系であり、政府は誤りを認めたがりませんから崩壊するのです。
一方、市場経済の国の政府の権力は計画経済の国の政府の権力よりはまだ小さいです。
市場経済の国で民間企業は、政府から少々の規制を受けつつも営利をもとめて自由に活動します。
市場経済の国の民間企業は自社商品の価格が高すぎて売れないと判断したら安くします。もし民間企業は自社商品が売れなかったら倒産してしまうからです。
市場経済の国で優れた商品が生まれるのも「売れないと倒産する」という危機感があるのが原因の一つとしてあります。
個々の労働者としても、たとえばもし工場の工員という職業が自分に合わないのであれば他の業種に転職すればいいのです。
つまり、市場経済の国の民間企業や労働者は誤り(価格を高くしすぎた、就職先を間違えたなど)を自主的に修正できるのです。
そのため経済は市場原理ある程度任せた方がいいといえます。


計画経済のメリットとデメリット【問題点は大きい】
次に計画経済のメリットについて解説します。
この場合のメリットとは、政府による経済運営がうまくいくという前提をもとにしたメリットです。
現実にはうまく行かないことだらけなのはこれまで申し上げたとおり。
- 失業がない
- 格差がない
- 社会保障は手厚い
- 特定の事業に国力を集中させることができる
- 不況が発生しにくくなる※
- 市場経済の国の不況の影響を受けにくくなる※
市場経済の国では周期的に好況と不況が訪れます。これを「景気循環」といいます。新卒就活生の採用倍率が年度によって違うのも企業の景気循環が反映されたもの。
で、たとえばアメリカの不況は日本にとっても悪い影響がかなりあるように市場経済の国の景況は海外にも連鎖しやすいという特徴があります。
しかし、計画経済の国は他国に対して閉鎖的な体制をとりやすいので、市場経済の国の景況が影響しにくくなる場合があるのです。
また政府が経済(景気)をコントロールできれば、理論上は不況が発生しないことになります。
戦前の世界恐慌ではソ連は大きな被害を受けなかったことが有名。

「特定の事業に国力を集中させることができる」という点はメリットにもデメリットにもなります。
北朝鮮のように核ミサイル開発にばかり資源をつぎ込むとマイナスですが、国が未発展の段階でインフラ整備に資源をつぎ込むのは悪くない発展かも。
計画経済のデメリット
次は計画経済のデメリットについて。これは現実的に起きたデメリットです。
- 政治が独裁化しやすい(誤りが正されにくい)
- 文化や報道の多様性が抑圧される
- 反体制的な人は強制労働か死刑に処される
- 優れた商品が生まれにくい
- 国全体が貧しくなりやすい
- 食料やインフラが不足しているため人々の寿命は短い
- 国全体が貧しいと外国から魅力的な商品を買うだけの購買力もなくなる
- 優秀な人が海外に流出してしまう
- ウソまみれの政治になりやすい
計画経済の国というのは「建前」としては格差や失業がありません。
そうなると現実には失業者がいたり政府と国民の間に大きな格差があるとしても、計画経済の政府は国民や諸外国に対して「うちは格差や失業がない素晴らしい国」と平気でウソをつきます。
計画経済の国では失業者や就労不能者が存在していないことにされるのです。
市場経済の国(資本主義) | 計画経済の国(社会主義・共産主義) | |
経済の大原則 | 各人が自由に活動する | 政府が経済を全面的に仕切る |
財産の大原則 | 私有財産制 | 社会的所有(国有) |
政治の大原則 | 民主主義(選挙の多数党が権力を握る) | 一党独裁 |
景気循環 | 政府が頑張っても発生する | 相対的に発生しにくくなる |
職業選択 | 各人の自由 | 政府が人々を強制的に配置する |
会社に対する政府の指導方針 | 民業を圧迫せず民業を助ける | 従業員は公務員であり、すべて政府の指導下 |
価格の原則 | 市場価格 | 公定価格(政府が一方的に決めた価格) |
それぞれの会社の基本方針 | 営利の自由な追求(つぶれたら自己責任) | 政府の指導の下に動く |
表現・言論・信教の自由 | 違法レベルでない限り自由 | 政府の規制はかなり強い |
実施している国 | アメリカや日本など世界のほとんどの国 | かつてのソ連 |
※市場経済の国では一部に計画経済の原理を、そして計画経済の国では一部に市場経済の原理を取り入れているのが普通です。
たとえば日本は市場経済の国ですが、戦時中や終戦からの復興期は計画経済っぽい政策が行われていました。
現代の日本でも、たとえば民間企業が騒音や廃棄物を垂れ流していたら低コストで金儲けができますが、それは迷惑なので政府は一定の制限を課しています。
まとめ
計画経済は理論上は素晴らしい体制です。
しかし、現実には害悪だらけ。
社会主義者や共産主義者は「市場経済よりも計画経済の方が優れている」みたいなことを言っていますが、それは戦時中や戦後復興期くらいにしか通用しないでしょう。
この記事を読んでいる賢明なあなたはウソに引っかからないでくださいね。
社会主義・共産主義の国家で独裁政権に殺された人数は計1億人以上ともいわれているように計画経済は恐ろしい体制なんです。


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