かの有名な男前俳優である松平健さんの本名は「鈴木末七」といいます。
推測ではありますが、おそらく松平健さんは七人兄弟の末っ子だと考えられます。
本名の「末」「七」という漢字から推測できるからです。(もし間違っていたらごめんなさい。)
このように単体の文字ごとに特定の意味をもっている文字を表意文字といいます。
今回は表意文字(表語文字)の代表格である漢字と、表音文字の代表格であるアルファベットとひらがなについて違いをわかりやすく説明します。
厳密に言うと表意文字と表語文字はちょっと違います。
とくに日本語における漢字と、中国語における漢字は違ったりもします。
表音文字と表意文字の違い
冒頭でも述べたように漢字は文字単体で特定の意味をもっています。
たとえば、日本人のある子どもの名前について「りお」というひらがな表記や音声だと男の子か女の子かわかりません。
しかし、「理男」と漢字で表記するのなら普通に考えたらその子は男性でしょう。「理夫」でも男である可能性が高いです。
要するに、ひらがなの「りお」は「rio」という音しか表していないので表音文字、漢字の「男」「夫」は「o」という音と同時に男性という意味ももっているため表意文字なのです。
もし女の子の名付けに「男」という漢字を使ったら非難されまくるでしょう。
本来、表意文字は1,2,3みたいな算用数字(アラビア数字)があてはまります。算用数字の読み方は言語によって違いますが、記号の意味は普遍的に共通です。
一方、漢字は意味と同時に特定の音も発していますから、言語学的には表語文字と呼ばれたりします。
英語でも日本語でも表音文字は数が少ない
英語の文字であるアルファベットは表音文字、日本語はひらがなとカタカナは表音文字、漢字は表意文字です。
- 英語のアルファベットは全部で26文字
- 日本語のひらがなは全部で約46文字
- 日本の漢字は小学校で習うモノだけで約1000文字
表音文字は音しか表さないため数が少ないといえます。どの言語でも母音はアイウエオ関連の音であり、そこに子音を組み合わせると各言語の表音文字の数は多くありません。
一方、表意文字である漢字はものすごい多さだといえます。漢字は音だけでなく意味をも表すため数が多いのでしょう。たとえば「義理」という言葉を英語で説明するのは結構難しいです。
しかもアルファベットの画数は1~4画ですが、漢字の画数は常用漢字だけでも1画~29画まであります。
これだけ画数と数量の多い漢字を、表音文字であるひらがなとともに使いこなせる日本人ってちょっとスゴイんですよ。
とくにアルファベット系の言語を母語としている人は日本語の文章を書くことを苦手にしています。これも日本語は漢字とひらがなを混じえて書くのが難しいから。
つまり、日本語を書くことを専門とした仕事に就いている人は欧米人から仕事を奪われにくいといえます。まあAI(人工知能)に仕事を奪われる可能性もありますが。
「ず」と「づ」を区別する意味
ちなみに日本語の「ず」と「づ」は同じ音であるため英語向けには「zu」と表記しますが、日本語の書き言葉としては使い分けます。
たとえばJR東海道線の駅名である国府津は「こうづ」と読みますがローマ字(ヘボン式)の駅名標としては「Kōzu」と書きます。「Kōdu」とは書かないのです。
表音文字としては「zu」という音声情報が重要なのであって、日本語の「ず」と「づ」のような区別はしたがりません。
表意文字は発音がわからなくても意味を察せる
表意文字に関して、たとえば人気漫画『ワンピース』のウソップというキャラについて台湾語で調べてみると「勇敢的海上戰士」と紹介されています。
私を含めて日本人のほとんどは「勇敢的海上戰士」を台湾語で読めず「ゆうかんてきかいじょうせんし」と発音するでしょうが、ウソップが「勇敢なる海の戦士」というのは字面からなんとなくわかるはず。
漢字は表意文字ですから、外国語で発音がまったくわからないとしても漢字の知識があれば意味がわかってしまうのです。
言い換えると表意文字は書いてこそ真価を発揮するといえます。
表意文字は短い単語を表しやすい
『吾輩は猫である』⇒『I am a CAT』という文を比べると日本語は「は」「である」のような助詞・助動詞がある分だけ文が長くなりやすいです。
しかし、単語単位で見ると短いモノもたくさんあります。
漢字 | ひらがな | ローマ字 | 英語 |
蚊 | か | ka | mosquito |
木 | き | ki | wood |
句 | く | ku | phrase |
毛 | け | ke | hair |
子 | こ | ko | child |
日本語の「こ」に相当する漢字で1字単位だけでも使われる漢字としては「子」「個」「弧」などがあります。
こういうのを文で具体的に示す場合、漢字はわかりやすいです。これが表意文字の力。
まあ漢文のような漢字だけの文章も日本人から見るとわかりにくいですが。
日本語文化と表意文字
一般に漢字を母語とする人間は話し言葉よりも書き言葉を重視します。
たとえばプロ野球の「巨人(きょじん)」の悪口を言いたい場合、「虚塵(きょじん)」と書けば定番の悪口に変化します。
虚は「からっぽ」、塵は「ちり」を意味しますから(巨人ファンの方、ごめんなさい)。
発音は同じ「きょじん」でも表記によって意味を使い分けることができるわけです。
こういうのは話し言葉ではなく表意文字としての書き言葉でないとわかりません。
漫画『北斗の拳』で「強敵」と書いて「とも」と読ませるのも表意文字の書き言葉ならではの表現だといえます。
日本文化は書き言葉重視の歴史だった
源氏物語のように日本は古代から文学が発展していたのは書き言葉重視の体系だったからでしょう。
平安時代の上流階級の男女が和歌を通じて想いを伝えていたのも有名ですね。俳句も書き言葉の文化。
現代の日本でも漫画やTwitter、LINE、ネットの掲示板などは書き言葉系の文化です。日本の各種の受験でも筆記試験ばかりが重視されていますし。
日本人が相手に文句を面と向かっていわずネットの掲示板に書き込むのも書き言葉重視の文化が原因の一つでもあります。