16世紀の宣教師フランシスコ・ザビエルは「日本語は悪魔の言語」と呼んだと言い伝えられているほど日本語は西洋人にとって難しい言語。
ザビエルが使った言語はスペイン語でしょうが、スペイン語と英語は割と近い言語です。
そして現代のアメリカの国務省には英語の母語話者にとっての外国語の習得難易度のカテゴリー表があり、そこで日本語は最難関の言語に分類されています。
つまり、英語話者にとって日本語が難しいということは日本語話者にとっても英語は難しいのです。
そこには英語と日本語では大きな違いがいくつもあることが影響しています。
今回はこちらについて紹介します。
日本語と英語の違い
日本語 | 英語 | |
文字の種類 | ひらがな、カタカナ、漢字 | ラテン文字 |
表音文字か、表意文字か | 表意文字と表音文字 | 表音文字 |
形態論 | 膠着語 | 屈折語 |
基本的な発声 | ほぼ有声音 | 有声音と無声音 |
基本的な母音 | 5コの短母音のみ (母音の発音は簡単) |
短母音、二重母音、三重母音で計約26コ (母音の発音は難しい) |
単語が 連続したときの発音 |
連続しても単語として発音する | 脱落、連結、短縮が行われやすい |
口や舌の運動量 | 少ない | 多い |
書き重視か、話重視か | 書き言葉重視 | 話し言葉重視 |
書き方 | 横書きと縦書き | 横書きが原則 |
基本的な語順 | SOV(主語⇒目的語⇒動詞) | SVO |
前置詞か後置詞か | 後置詞 | 前置詞 |
単語の数 | 多い | 日本語よりは少ない(語と語の組み合わせは多い) |
時制 | 曖昧 | うるさい |
敬語表現 | うるさい | 日本語ほどうるさくない |
単数形と複数形 | 違いは曖昧 | 違いは明瞭 |
主語の省略 | 頻繁に起きる | 省略しにくい |
男言葉と女言葉 | 一人称主語や語尾に違いあり | 形容詞に違いあり |
ここから先は上の表を掘り下げていきますが、すべてを紐解くのは無理なので興味深い違いばかりを取り上げます。
語順の違いは品詞の多義性とむすびつく
たとえば日本語には「甘い」という言葉があります。
- 甘い食べ物(味が甘い)
- 子どもに甘い(態度が寛容)
- 甘いマスク(他人を魅了する)
- 切れ味が甘い(鈍い)
日本語の「甘い」は多義的ですが、すべて同じ品詞(この場合は形容詞)です。
しかし、英語の多義語はいくつもの品詞を兼ねている場合が結構あります。
- light truck⇒軽トラック(lightは形容詞)
- light up⇒点灯する(lightは動詞)
- turn on the light⇒点灯する(lightは名詞)
英語の品詞は、名詞の直前なら形容詞、主語の直後なら動詞、冠詞や形容詞の後ろなら名詞、というように「配置と語順」によって見分けることができます。
「Stand by me(そばにいて)」と動詞の原形を最初に置けば命令文になるように語順が大事。
英語は日本語に比べると単語数が少ないですが、英語は単語の組み合わせの豊富さによって単語の少なさを補っています。
言い換えると、英語では語順を間違えると自分の意図した内容が伝わらないのです(例外的に副詞だけは位置の自由度が高め)。
たとえば英語の「He is good at playing tennis」を「good tennis playing he good is at」と語順を入れ替えてみると意味不明の文ができあがります。
一方、日本語ではたとえば「彼はテニスがうまい」は「うまいよね、彼は、テニスが」でも「テニスをするのがうまい、彼は」と言っても通じます。
日本語には助詞という魔法の言葉があるため、「彼」と「は」をセットにして「彼は」と表現すれば、「彼は」が文頭でも文中でも文末でも主語として通じるのです。
日本語の命令形は「これを読め」という感じで語尾まで見聞きしないと命令形かどうかわかりません。
これは、英語が重要な情報を前にもってくる傾向があるのとは対照的。
英語は主語や所有格を省略しにくい
省略に対する姿勢も日本語と英語では違います。
たとえば日本のドラマの中で人気俳優のSさんが「寝る前に歯を磨いとこう」という習慣的なセリフを発したとします。
だれがだれの歯を磨くのかは明らかではありませんが、日本人の感覚で普通に考えたら「Sさんが寝る前に自分で自分の歯を磨く」と解釈するはずです。
「ペットの歯を磨く」なんていう可能性もありえますが、その場合は「ポチ(ペットの名前)の歯を磨く」みたいな感じで表現するでしょう。
一方、英語では次のように表現します。
I brush my teeth before bed. (今から歯を磨くところと表したいのなら「be about to~」を使います。)
要するに英語は主語や所有者をいちいち明らかにしたがる言語なのです。
名詞の前に冠詞か所有格を置いて名詞の属性を示したがりますし、無冠詞という用法もあります。これらは日本人が混乱しやすいところ。
日本人(日本語話者)の多様性は低いため、言葉は省略用法でも通じます。
しかし、英語話者は民族や慣習が多様であるため、主語や所有者をいちいち明らかにしたがります。
日本語は文字のとおり読むが、英語は違う
たとえば「good job」の発音は「グッジョブ!」という感じで感情をこめている感じで発音します。
Google検索で模範を発声してもらうと「d」も小さく発声していますが、goodの後ろに何か続くと「d」の発声が消えたりするわけです。
同じく「king of」は日本語風発音だと「キングオブ」ですが、英語だと「キノブ」という感じで、gの音が消えると同時にnとoが合体したような発音になります。ついでにブの音も小さいです。
英語の語尾の子音は発音が消えたり前後の母音と結びつく発音になりがちなのです。
日本語にはこういう発音は基本的にありません。日本語は書かれた文字のとおりに発音する言語ですが、英語は実際に発音するときは書かれた文字のとおりに読んでいる感じにはならないのです。
日本人の笑顔は、芸能人やテレビ関係者などは歯を見せて笑いますが、一般人は歯をあまり見せたがりません。これは「慎ましさ」を美徳としているからか。
この点、英語圏の人の笑顔は全般的に歯を大きく見せます。英語圏の人は歯並びの良し悪しをかなり気にしますし。
有声音だらけの日本語と、無声音が多い英語
音といえば有声音と無声音の違いも大きいところです。
たとえば日本人が日本語で「ストップ」と発音する場合、「ス」も「ト」も「プ」も声帯を鳴らして発音するはず。これを有声音といいます。
一方、無声音とは声帯を振動せさずに出す空気主体の音をいいます。たとえば、ちょっと汚い話ですが、ガムを噛んで「プッ」とガムを勢いよく吐き出してみてください。
このときの「プッ」はさきほどの「ストップ」の「プ」とは違って、空気をためて破裂させたような音になっており声帯は震えていないはずです。こういう空気を主体とした音を無声音といいます。
日本語は基本的に有声音だらけの発声ですが、英語は有声音と無声音を交えます。この違いは大きいです。
たとえば、日本の民謡歌手が日本語の歌をロウソクの前で歌ってもロウソクは大して揺らめきません。日本語は空気をはかず声帯を鳴らして発音するからです。
しかし、英語圏の歌手が英語の歌を歌うとロウソクは大きく揺らめきます。英語は無声音が多く、それは空気を利用した音だからです。
もし英語の発音が上手くなりたいのなら、無声音で発音すべきところは無声音で発音しないと上達しません。
その他の違い
日本語の口語の一人称代名詞の場合、男性は「オレ」「わたし」「ボク」「ワシ」を、女性は「わたし」「うち」を使いやすいです。
また口語の語尾について男性は「~だ」「~ぜ」、女性は「~よ」を使います。
一方、英語はそこまでハッキリとした違いがないものの、形容詞の使い方にちょっとした男女差があります。
具体的には英語圏の女性は「sweet」「lovely」を使う一方で、男性はそれらをあまり使いません。
敬語表現の違い
日本語の敬語は、年齢・社歴や役職が上の人に対して使う言葉という感じです。
一方、英語の敬語はビジネスのようなフォーマルなシーンで使う場合と、親しい家族や友人との間で使う場合とで使い分けるという感じ。
たとえば「What is your name?」は文法的な間違いはありませんが、フォーマルなシーンで使うと失礼な印象をもたれやすいです。
それを日本語に訳すと「あなたの名前は何なの?」という感じに聞こえるように直球的すぎる表現だからです。
それよりも「May I ask your name?」と尋ねるべき。
このあたりは少しずつ慣れていくしかありません。