ごく当たり前のことですが、女性が子どもを産めば、その女性はその子の血縁上の母親にほかなりません。
しかし、父親にとっては自分と子どもの間では親子関係に確証をもてない場合があるでしょう。
つまり、妻は他の男と浮気しており、その子の本当の父親は自分ではないかもしれないという疑いです。
筆者も男ですから、男性が自分の血を受け継いだ子孫を残したいという本能をもっていることはよくわかります。
こうした疑念を一気に解消する手段が親子間(実質的には父子間)のDNA鑑定です。
DNA鑑定の義務化に反対!
DNA鑑定で父子間の親子関係が証明されれば、父親は安心して妻と子どもを養えるというものです。
逆に親子関係が認められなければ、父親は離婚して慰謝料を請求したり、さっさと次の相手を探す行動に移れるでしょう。
男性とて父親になれる機会や能力は限られていますから、親子関係の真実はなるべく早く知りたいと考えるものです。
ただし、父親がDNA鑑定を提案すると妻との間の信頼関係が壊れるため、DNA鑑定義務化の賛成派は公権力が強制する形にした方がよいと主張します。
しかし、広く社会を見渡すとDNA鑑定の義務化は無理があると考えます。
筆者はDNAの義務化に反対ですが、それでは父親が報われないため現行法の改定は必要だと考える立場。
公権力と法律のあるべき形
そもそもDNA鑑定を義務付けるという行為は、公権力が法律にもとづいて親子関係を強制的に明らかにする行為にほかなりません。
しかし、やましいところがない夫婦はそれでよいとしても、世の中には一定の割合で托卵型家族もいます。
残念ながらこれは間違いありません。父子間のDNA鑑定が義務化されれば托卵型家族も減るでしょうが、それでもゼロになることは考えにくいです。
実際、イギリスではそういう夫婦が何割かいるという調査報告がありましたし、中国では訴訟沙汰にもなりました。日本でも芸能人夫婦の托卵が話題になりました。
そういった夫婦にDNA鑑定を強制した場合、法律が、放っておけば平穏だったはずの親子の仲を引き裂いてしまいます。
このとき父親は救われるとしても、子どもは不幸になるでしょう。
母親やその子の本当の父親には責められるべき重大な点があるとはいえ、何の落ち度もない子どもがかわいそうです。
そういう子どもは非行に走って健全な家族に迷惑をかけるかもしれません。このとき迷惑をかけられた健全な家族もかわいそう。
つまり、社会全体の秩序をうまく調整しようとする公権力にとってDNA鑑定の義務化は無理があるといえます。
法律は人間同士の争いが少なくなるようにつくるのが大原則であって、わざわざ争いを増やすようにはつくらないのです。
実際、憲法も刑法も道路交通法も争いをおさえる方向につくってありますし、法律家は平和主義者が多いです。
法律は公権力は争いを抑える側
むろん、裁判所としても人々のいざこざに法を適用して争いを解決する方へ動くのが大原則です。
街中でケンカが起きて警察が出動したら警察はケンカをおさえる方へ働きかけるでしょう?
あれと似たようなもので、法律や公権力は争いをおさえる側なのです。
とくに民事系の争いについては当事者が解決するのが近代法の原則であって公権力は大して踏み込んできません。
もし新しい法律の制定や法改正によって争いが増えたら、それは悪法と呼ぶべきです。かの有名な禁酒法のように。
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参考禁酒法の教訓を簡単に解説【こんなの最低の悪法じゃ】
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浮気された男がかわいそう:現行法の改定も必要
托卵において咎められるべき人は母親と浮気した男であって何の落ち度もない子どもに迷惑をかけるべきではないといえます。
もちろん浮気された側の父もかわいそうですから、嫡出否認の訴えの期限は現行の1年からもっと延ばすとか、その母親とやらかした男には養育費の差し押さえがあってもいいと思います。
まあかつての姦通罪の復活みたいなのはかなり難しいと思いますが。
血がつながっていなくても法的には親子
なお、先進国の民法では親子関係とは生物学的なつながりが要件ではないと定められています。
つまり、人間は血がつながっていない人との間でも親子関係を築けるということです。
You are not the father
以前、アメリカで『You are not the father』という番組が盛り上がりを見せていました。
この番組に出演する夫は妻の浮気を疑っており、子どもの本当の父親ではないと主張します。
妻はそれを強く否定するのですが、DNA鑑定によって夫の疑念が真実であることを告げられると夫はものすごく喜ぶ一方で、妻の多くはひどく逆上します。
疑いをもっている夫婦でさえこのありさまですから、何も疑いをもっていなかった夫婦の仲が公権力によって引き裂かれたら社会のいろんなところがおかしくなるのは目に見えています。
したがって、父子間のDNA鑑定をやるなら私的にやるしかないわけです。