日本社会では「資本家は労働者を搾取している」と主張されることがあります。
しかし、この主張は半分くらいはウソです。
これは本来、労働者にとって味方であるはずの日本共産党が一部の労働者からしか支持されないこととも密接な因果関係があります。
同じ左翼である日本共産党と立憲民主党が全面的に共闘できない理由もそこには含まれています。
この記事では資本家と労働者の定義、その関係の変質、搾取の意味、左派としての野党が共闘しにくい理由について公平に説明していきます。
ちなみに筆者個人は株式投資をやっており、共産党が政権をとると株価は暴落するため共産党を支持することはありえません。
株価的には自民党政権が無難ですが、自民党の感性は悪い意味で古いことに不満をもっています。
資本家は労働者を搾取している?【共産党の支持率が低い根本理由】
まず知るべきはマルクス主義的な資本家と労働者の意味です。これは現代における日本語の日常用法とはちょっとズレています。
マルクスとは、左翼や共産主義者にとって教祖ともいうべき19世紀のジャーナリスト兼思想家みたいなドイツ人(プロイセン王国人)のこと。
このマルクスの主張に沿った思想体系がマルクス主義です。
- マルクス主義的な資本家生産手段をもっていて利益を増やそうとする人
- マルクス主義的な労働者生産手段をもっていないため自らの労働力を資本家へ提供し、労働の対価である賃金で生活する人(雇われの身)
生産手段とは、土地や工場、工業製品をつくるための製造機械などを意味するとお考えください。
この生産手段を自前で導入して利益を増やす人が資本家です。
現代における資本家が「他人に出資できるくらいのお金持ち」を意味しているのとはズレているのです。
現代の資本家と労働者は大きく変質した
マルクスが観察していた19世紀の世界はヨーロッパ一帯で工業が大きく発達しつつあった時代でした。
そこでは「資本家=金持ち、労働者=貧困層」という図式が成立していました。
しかし、以下の表のように現代社会ではその図式が大きく崩れてしまいました。
現代人の経済的な属性 | 金持ち度 | 総人口に占める割合 | どんな人か |
大金持ちの資本家 | AAA | かなり少ない | 上場企業の創業家 ものすごい投資家や地主 |
開業して成功している資本家 | A | 少ない | 開業医 開業している専門職(弁護士、税理士など) 未上場で成功している企業の創業家 |
かなり裕福な労働者 | B | 少ない | 大企業の雇われ幹部 雇われの医師や弁護士 |
それなりに裕福な労働者 | C | 多い | 大企業の正社員 中小企業の幹部社員 副業や投資が成功している社員 上級職としての公務員 |
普通レベルの労働者 | D | 最も多い | 普通の社員や公務員 |
貧しい労働者 | E | 多い | 非正規雇用者 |
普通~貧しい資本家 | B~E | やや多い | 町工場や零細企業の社長 自営業者・フリーランス |
日本共産党も含めて各国の共産党は本来、労働者に味方するとともに資本家に反発する勢力です。
各国の共産党は「労働者にとって辛い資本主義から、革命を経ることで共産主義社会に移行し、すべての人が平等に暮らせる」という形を理念としています。
しかし、現代の先進国(資本主義社会)では共産主義に移行していないのに裕福な労働者と貧しい資本家がそれなりに多く生まれてしまいました。
資本主義は自由な利益追求と競争を基本とする体制であり経済格差が発生しやすいです。
一方、共産主義はすべての人が平等に暮らせる体制であり労働者や資本家のような階級格差がないとされます。
資本主義下で裕福な労働者は貧しい資本家よりもいい暮らしをしています。
たとえば裕福な労働者は株式を保有しますが、共産党は資本主義および株式投資を嫌うため、裕福な労働者が共産党を支持する率は低いです。
まあ一部の医者や弁護士は共産党を支持していますが…。
20世紀前半からはソ連を皮切りに共産主義系(社会主義系)の国家がいくつも生まれました。
しかし、すべての共産主義系国家は政権幹部だけが肥えて、その他多くの国民はひどく困窮するという独裁体制になってしまいました。この独裁体制下で殺された国民の数は1億人以上といわれています。
これも共産党および共産主義が強く疑われる原因です。
現代の大企業は雇われの社長が多い
上場企業の社長はユニクロのような創業家が担っている場合、社長の報酬は大きいのが普通ですし、社長は大株主である率も高いです。
大株主である社長は自身が保有する大量の持ち株の価格が上がれば自身の資産額も上がるため、株価を上げることに熱心です。
こういう社長はオーナー社長と呼ばれます。オーナー社長はマルクス主義的には資本家タイプです。
一方、日本の大企業の社長は雇われの社長が多いです。雇われの社長とは普通の社員から出世した人であり、社長としての報酬や自社株の保有数はオーナー社長よりは少ないです。
大企業の雇われ社長は労働者タイプですが、経済的にはかなり裕福です。
共産党と立憲民主党が共闘しにくい理由
さて、日本には同じ労働者の味方系の政党として立憲民主党もあります。
共産党と立憲民主党は同じ左派で労働者重視の政党ですから共闘してもいい感じですが、現実にはいろいろ壁があります。
というのも立憲民主党の支持基盤はおもに大企業の正社員たち構成される有力な労働組合であり、さきほどの表でいうとB~Cレベルの裕福さです。
立憲民主党は資本主義の枠内で人々(とくに労働者)が豊かになることをめざしています。
しかし、共産党は革命をめざす政党であり、共産党の支持基盤は一部の弁護士や医師のようなエリートと非正規雇用者に多いなど両者はズレているのです。
これに関して共産党は「非正規雇用者の待遇を上げろ」と主張していますが、正社員系の労組は難色を示しています。
もし企業が非正規雇用者の待遇を上げると、正社員の待遇はその分だけ削られるからです。
これは公務員における正規労働者と非正規労働者の関係にも言えます。
非正規雇用者の待遇も正社員の待遇も上げるという方策も考えられます。
しかし、企業の人件費(賃金、給与)は最低賃金さえクリアーしていれば、各企業が自由に決めることができます。そこでは人件費に支出できる総額は、その会社の経営状態によってあらかじめ決まっているもの。
日本企業は「サラリーマン共同体」とも呼ばれるように正社員の地位が強いため、正社員は非正規雇用者の待遇を上げたがりません。
とくに日本の大企業は幹部社員や社長までもサラリーマンみたいな存在ですから。
リーマンショックのような大型不景気が起きたときでも日本企業は正社員を解雇しないでいられるのは、非正規雇用者を解雇するなど非正規雇用者は景気の調節弁になっているから。
同じ労働者系の政党でもここまで労働者の毛色が大きく違うと共闘が難しいのです。
共産党は「大企業はもっと社会に利益を還元しろ」と主張するなど大企業を敵視していますが、労働者の味方であるはずの共産党が大企業を敵視するというのもおかしな話です。
大企業で働いている人のほとんどは労働者であって資本家ではありません。
大企業の中に資本家がいるとしたら創業家の社長や社員くらいであって全体に占める割合はかなり少ないです。
搾取の意味を考えてみよう
次はいよいよ搾取について。
搾取とはマルクス主義的には資本家が労働者が生産した生産物について資本家が過剰に得る行為と考えてください。
たとえば搾取の体系では労働者が1万円分の工業製品をつくったとき、労働者の報酬は1万円ではなく5000円とかになってしまうのです。
搾取したお金は資本家のふところに入ったり、工場の光熱費に支払いにまわったり、新たな生産手段の購入に費やされます。
ここで「資本家はひどい」と考える人がいるでしょうが、その考え方は現代では一面的すぎます。
- 現代の労働者資本家や会社から搾取されているが、会社が倒産しそうなら(倒産したら)他の企業に移ればいいだけ。
- 現代の資本家労働者を搾取しているが、新たな工場をつくったりして新たな雇用を生み出している。大きな資本家は所得税、住民税、法人税など国から取られる税金も大きいし、倒産時のリスクも大きい。
資本家は自前の資金で動いている以上、成功したときの報酬は大きい一方で失敗したときのダメージも大きいものなんです。
日本人が起業に消極的なのも失敗を恐れるからです。
そこで日本人の多くは安泰を得たいために大企業に入社することをめざすわけ。まあ大企業とていつまでも安泰ではないでしょうが。
国際的な搾取だってある
次は共産党と搾取と国際関係について。
本来、各国の共産党は対立する関係にはなく、万国の労働者が協力して政治活動する際に媒介される政党です。
しかし、現実には貧しい労働者もいれば裕福な労働者もいます。当然、異なる層の労働者は団結しにくいです。これは左派としての野党が共闘しにくい最たる要因です。
また先進国と途上国の間にも大きな経済格差があります。それは先進国の労働者と途上国の労働者が簡単には協調できないことをも意味します。
先進国の豊かさは国民の努力もありますが、途上国を搾取することで成り立っている部分もあります。
たとえば途上国でコーヒーやチョコレートの原材料をつくっている少年少女はかなり安い賃金で頑張っています。
この現実を徹底的に助けるべきならば、先進国は途上国にお金をじゃんじゃん支払う必要がありますが、先進国の共産党はそこまで強い主張はしません。
もし先進国の共産党がそんな主張を展開すると、その国民から支持が得られないからです。
「万国の人間が平等に豊かになる」という人類の経済面での究極目標はとんでもなく難しいといえます。