今回は垂直統合と水平分業の違いについてわかりやすく解説します。
そもそも垂直統合と水平分業とは、製造物の設計・生産・販売を企業がどのように担うべきかの違いです。
垂直統合の例としては自動車メーカー、水平分業の例としてはパソコンメーカーの例を挙げています。これは現代の世界経済に定着しているからです。
逆に自動車(ガソリン車)は水平分業、パソコンは垂直統合でもつくることができますが、相性としては、自動車は垂直統合、パソコンは水平分業だとお考えください。
日本は垂直統合には強い
まずは垂直統合について。
垂直統合とは、一つの企業グループが研究~生産~販売を一手に引き受けること。上の例の場合、親会社であるトヨタ自動車がいずれの工程でも包括的な地位にあります。
日本の自動車メーカーの国内生産は日本国内の系列企業が協力すれば、できあがるものなのです。
そのため垂直統合は秘密主義の色彩が強いです。
垂直統合はグループの力がものをいう
日本企業は系列・グループ内での協力関係を強く意識しますから垂直統合はなじみやすいといえます。たとえばトヨタ自動車はトヨタグループと三井グループに入っています。
パソコンメーカーの中では例外的にアップルだけは垂直統合の度合いが強くなっています。
アップルは本体(ハードウェア)とiOS(ソフト)と販売(ネットと実店舗)を自社で手掛けているからです。
パソコンは水平分業が強い産業
一方、パソコンは水平分業の度合いが強い産業です。
水平分業とはグループ関係にない企業が自社の得意分野となる部品を特化して生産し、それを持ち寄って生産する体系のこと。
たとえばパソコンは、CPU、メモリ、ストレージ、マザーボード、液晶パネルといった部品、そしてWindowsのようなソフトに分かれており、一社でどれもこれも生産できる企業はほとんどありません。
以上のような部品は専門性がとても高いため一つの企業グループで生産できず、グループ関係にないアメリカ、日本、台湾、韓国、中国の企業がそれぞれ生産しているところに特徴があります。
スマホの生産もこれに近いものがあります。
パソコンの生産では上下関係に差がない
垂直統合ではトヨタのような親会社の存在感はかなり強かったですが(=下請けとの上下関係に格差がある)、水平分業における格差は垂直統合ほど高くありません。
垂直統合は親会社の包括的な指揮をもとに自動車を生産・販売するという感じでしたが、水平分業は会社間のグループ関係が希薄であり、あくまで自社商品(部品)の生産に特化しているだけだからです。
また、いざとなればデスクトップパソコンは部品をかき集めれば個人で組み立てることができます。このとき絶対に必要な工具はプラスドライバーくらい。
パソコンの組み立ては個人でもできますから権威が欠けていますし、組み立てメーカーの利益率は大きくありません。パソコンは組み立て工程では高い付加価値をつけることができないのです。
NECはネット直販も一応ありますが直販サイトはアップルほどの集客力はありませんし、アップルのようにアップル製品だけを売る実店舗をもっていません。
NECはパソコンの販売段階ではカゲが薄くなるのです。
オープンアーキテクチャ
水平分業で各社は自社の得意分野ばかりを伸ばします。パソコンは速度と価格という効率を重視するように、水平分業は専門的な分業とともに効率を重視する体系になっているのです。
半導体産業も昔は技術力さえあれば勝てた感じですが、現代では同じような半導体をより安くつくれる企業が強いです。
現代のパソコンがスペックの割に低価格なのは水平分業が大きく作用しているから(各国の安いパーツとソフトで組まれているから)。
90年代のパソコンなんて現代の水準から見るとかなり低スペックなのに30万円くらいはしましたからね。
もしパソコンの生産についてパーツもソフトもすべて国産にこだわったとしたら、今1台あたり10万円で買えるパソコンは30万円くらいの値段にしないと利益は出ないと思います。
また垂直統合における自動車の生産過程は割と秘密主義ですが、水平分業で生産するパソコン部品やパソコンソフトは規格も提携関係もオープンになっています。
これを専門用語でオープンアーキテクチャといいます。
ちなみに外部リンクではありますが、以下の記事では国産パソコンと海外産パソコンの生産体制の混沌ぶりが明らかになっています。