日本全国を高速で駆け回る新幹線。
現行の最高速度 | |
東海道新幹線 | 285km/h |
山陽新幹線 | 300km/h |
九州新幹線 | 260km/h |
北海道・東北・秋田新幹線 | 320km/h |
上越新幹線 | 240km/h |
北陸新幹線 | 260km/h |
しかし、さすがの新幹線もスピードを遅くせざるを得ないパターンがあります。
今回はこの遅さをパターンごとに紹介します。
そのパターンとは以下のとおり。
- 線形が悪い
- 勾配がきつい
- ミニ新幹線の区間
- 貨物列車とのすれ違い
- 終着駅+多くの列車が停まるうえに距離が短い
- 複線で待避が多い
- 近隣住民との約束
- ライバル交通の競争圧が弱い
わかりやすく解説しますので見ていきましょう。
新幹線のスピードが遅いパターン
たとえば、上の静岡県熱海市付近の地図をご覧ください。
白と黒の線がJR東海道本線で、白と青の線が東海道新幹線です。
「熱海駅の前後はカーブがきついな」と思いませんか。実際、ここは高速鉄道にしてはかなりきついカーブです。
一般に鉄道はレールが真っすぐであるほどスピードを出すことができ、悪いほどスピードを出すことができません。
そのため、東海道の中でもとくにカーブがきつい熱海駅付近では185km/h以下にスピードを落とすのです。

熱海駅手前で傾きながら走る新幹線
今度、新幹線が熱海駅の前後にさしかかったらカーブのきつさを体感してみてください。
あそこは急カーブ・遠心力対策として線路にカントがついているため、目に見えてわかるほど車体が傾きますよ。
カントとは、外側のレールと内側のレールに高低差がついていること。
自動車レースや自動車のテストコースで傾斜のついた道路はバンクと呼ばれます。


上記以外で線形やポイント(分岐器)の問題でスピードを出せない区間は以下のとおり。
- 東海道新幹線の東京~新横浜
- 北陸新幹線の高崎付近の分岐(かがやきが通過する際は速度をかなり落とす)
- 上越新幹線の中山トンネル(高崎~上毛高原)

北陸新幹線は勾配がきつい
それから上から見ただけの地図ではわかりにくい要素として勾配もあります。
勾配とは傾斜のこと。すなわち、坂がきついと登るときのスピードは遅くなりますし、下るときもスピードを出し過ぎて危ないのです。
これに該当する区間としては北陸新幹線の軽井沢付近と飯山付近が有名です。
建設する時点で勾配に配慮していますが、それでも勾配はどうしてもついてしまう区間もあります。
ミニ新幹線の区間は遅い
さて、新幹線の規格にはフル規格とミニ新幹線があります。
しかしというか当然というべきか、フル規格の新規建設はお金がかなりかかります。
そこで本数・利用客が少ない地方では在来線の線路を、新幹線向けに広くしただけの区間があります。これがミニ新幹線です。
フル規格の新幹線軌道に踏切は一切ありませんが、ミニ新幹線の区間には踏切はいくつもあります。
当然、ミニ新幹線はカーブの半径もフル規格よりもきついですし、単線の区間も多いです。こういう特徴があるとスピードは遅くしなければなりません。
具体的には山形新幹線の福島~新庄と、秋田新幹線の盛岡~秋田はミニ新幹線の区間です。
それらの区間では車体は新幹線ですが、法制度的には在来線という扱いになっております。


青函トンネルにおける貨物列車とのすれ違い
それから青森県と北海道の間にまたがる青函トンネルは、線形は悪くないものの、貨物列車と線路を共用する特殊な区間であるため速度をおさえています。
新幹線が速いスピードで貨物列車とすれ違うと、新幹線の風圧が貨物列車の積み荷に異常をきたしうることからスピードをおさえているのです。

終着駅+多くの列車が停まるうえに距離が短い
さて、当たり前ですが、電車はあらかじめ定められたダイヤに沿って駅に停まります。
で、中間駅(行き止まりになっていない駅)なら駅に停まる際もそれなりに速いスピードで入線します。望ましくありませんが、中間駅ではもし列車がオーバーランしたとしても致命的な事故にはなりません。
しかし、行き止まりになっている駅でオーバーランしたら大惨事です。そのため、新幹線の東京駅は遅いスピードで入線します。
とくにJR東日本の新幹線は東京駅から4kmちょっとしか離れていない上野駅にも停車する率が高いです。東京駅と品川駅の間も高速鉄道にしては距離はかなり短いです。
これだけ短い停車間隔であることに加えて、終着駅が近いとスピードを遅くし続けるのも当たり前というわけです。


以前、北陸新幹線は黒部宇奈月温泉駅(中間駅)で2mオーバーランしただけでヤフーニュースに載りました。
新幹線は高性能の自動制御装置を備えているものの、停車時はまれにオーバーランが起きるようです。まあ制御装置がさらに高度化すればオーバーランはなくなりそうですが。
こだまはのぞみ・ひかりの通過待ちが多いから遅い
それから東海道新幹線は全線にわたって複線であり、さらに本数が多いです。そのため、各停のこだまは速達タイプののぞみとひかりを待避する率が高いです。
いわゆる通過待ちは1駅で1本だけとは限らず、2本・3本に抜かれる場合もあります。
JR東日本の新幹線は大宮から下りは各線に分岐するため、本数の密度はさほど高くなく、通過待ちは東海道ほど頻繁ではありません。


上野~大宮は近隣住民との約束がある
これまで見てきた原因は、線形、ミニ新幹線、風圧、駅間の距離が短い、折り返しなど物理的な理由でした。
しかし、物理的にはスピードを出せるにもかかわらず、社会的な要因でスピードを出せない区間もあります。
それが上野~大宮の区間です。
この区間は新幹線を建設する前の時点から騒音をめぐって反対運動が激しく展開されていました。
しかし、新幹線は社会的に必要ということで「上野~大宮は速度を落とす」という合意のもとに建設・運行することとなりました。
当時よりは事態は改善しつつありますが、それでも速度制限は残っています。
ライバル交通の競争圧が弱い
それからライバル交通の競争圧が弱いとスピードを上げる誘因に欠けます。
たとえば、JR東海が東京~新大阪のスピードアップに力を入れるのも、飛行機と高速バスというライバル交通も力を入れている区間だからです。
しかし、東京~新潟においては航空各社は力を入れない路線であるため上越新幹線もスピードアップに積極的ではありませんでした。

まとめ
新幹線はとても速い乗り物ですが、物理的あるいは社会的な要因によってスピードを控えている区間もあります。
そこでは日本が狭く国土に平地が少ないことも影響しているのです。